マインドレスな状態では、何かの事象が「きっと起きるはずであり、それが起きたらひどいことになる」とただ思い込み、それがストレスにつながる。反対にマインドフルになるとは、その事象が「そもそも起こり得ない可能性さえあり、たとえ起きたとしても実際には有益かもしれない」ことを示す、新たな理由を探すことだ。そうすると、ストレスは消えてなくなる。

 また、マインドフルネスと瞑想(メディテーション)を混同している人も多い。瞑想はマインドフルネスを達成するための手段として使えるが、訓練が必要であり、難しいと感じる人もいる。

 私や同僚たちの研究では、マインドフルネスは瞑想を必ずしも必要としない。それは「新しい物事に気づく」という、ごく単純なプロセスである。それによって私たちは「いまこの瞬間」に集中でき、文脈と状況に対して鋭敏になれる。マインドフルネスは、エンゲージメント(対象への関与・従事)の本質なのだ。

「気づき」のプロセスは、自分にとって未知と思える物事に接したときに自然と生じる。それはエネルギーを消耗するのではなく、むしろエネルギーを生み出してくれる。たとえば、初めてパリに旅行する場合を考えてみよう。すべてが新鮮でワクワクするため、可能な限りたくさんの物事に気づこうと積極的になるだろう。休暇旅行を楽しむその体験は、困難ではないし避けるべきものでもない。

 問題は、自分がすでに知っていると思い込んでいる物事に接する場合である。それは対象に注意を払う必要がないと決めつける、マインドレスな状態になってしまうからだ。

 たとえば「1+1=」というテーマについて、答えが2であるのは自明のため、ほとんどの人はそこで話を打ち切る。しかし、何事も常に変化しており視点を変えれば違って見える、ということを理解していればどうだろう。このテーマにも注意を払い、1つの雪塊を別の雪塊にくっつけるような場合は1+1=1にもなる、ということに気づくことができる。

 我々が何年も前に行ったある研究では、被験者に何を嫌いだと感じるか尋ね、それに関連するタスクに従事してもらった。音楽であればラップが嫌いな人はラップを、クラシックが嫌いな人はクラシックを聴いた。サッカーは退屈だという人はサッカーを視聴し、美術に何の関心もないという人は絵を鑑賞した。

 どのケースも、タスクをマインドレスに行う人々と、マインドフルに行う人々に分けた。マインドレスのグループは、そのタスクをただやるだけだ。もう一方のグループには、それぞれのタスクにおいて1つ、3つ、または6つの新しいことを見つけてもらうようにした。

 すると結果は明白であった。より注意を払って新たな気づきを多く得た人ほど、対象を好きになったのである。

 我々の他の研究では、次のような結果も示されている。人はマインドフルになると、より生産的で創造的になる(英語論文)。そして他者からより魅力的に見られる(英語論文。マインドフルな状態の2人が会話をすると、そうでない場合よりも互いに好印象を抱き会話を楽しんだ)。さらに、仕事の成果がより優れていると他者から認識される(英語論文。交響楽団がマインドフルな状態で演奏すると、そうでない場合よりも聴衆に高評価された)。

 また、マインドレスなままでは気づけないチャンスを捕らえることができ、まだ顕在化していない危険を避けることもできる。加えて、マインドフルネスは健康と寿命に良い影響を及ぼすことも明らかだ(関連著書邦訳)。ここまで挙げれば、マインドレスであることを選ぶ理由を見つけるほうが難しい。

 マインドフルになれば、他者から自分を偽らず信頼できる人物だと見なされ、それが職場でも家庭でも人間関係によい影響をもたらす(英語論文)。そして、何事も同じ状態であり続けることなどないと理解できる。すると他者(および自分自身)を、ネガティブに捉えたり当人の属性(資質、能力、感情といった内的要因)に基づいて判断したりする傾向が減り、外部の状況に即して見るようになる。

 もちろん、このことも人間関係にはプラスとなる。「彼のあの行動はいつも人を苛立たせる」というように感じることがなくなるからだ。自他の行動をマインドフルな目で見ると、ネガティブな特徴はどれも、同じ程度に影響力を持つ正反対の面を併せ持っていることに気づく。彼のその行動は頑固とも言えるが、首尾一貫しているとも言える。あるいは、一貫性がない/柔軟、衝動的/自然体、だまされやすい/人を信頼するタイプ、というように両面から考えられる。そうなれば、決めつけをあまりしない、端的に言えば「いい人」になるのだ。

 つまり、マインドフルネスは多大な努力を必要とせず、ストレスにもならない。マインドフルになるための方法はいくつもある。そして個人的規範として取り入れれば、より健康的で幸福になれる。

 これらが理解されれば、それ以上言葉を尽くして説得する必要はなくなるだろう。


HBR.ORG原文:Mindfulness Isn’t Much Harder than Mindlessness January 13, 2016

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エレン・ランガー(Ellen Langer)
ハーバード大学心理学部教授。ランガー・マインドフルネス・インスティテュート創設者。著書に『心の「とらわれ」にサヨナラする心理学』、『ハーバード大学教授が語る「老い」に負けない生き方』などがあり、200を超える論文を執筆。「マインドフルネスの母」と称えられる。