ポーターの考えを実践するのが、世界的な食品メーカーのネスレですが、その先導役となったのは、ピーター・ブラベック元CEOです。ブラベックは、経営者として、創業140年のネスレがこれから先140年も存続するためには何が必要か考えます。そこで自ずと出てきたのが、「投資家に長期的にわたって利益を生み出すためには、社会に価値を生み出さなければいけない」という結論でした。そこでブラベックは、ネスレが社会にどれほど価値を生み出しているのか、あるいは破損しているのかを徹底的に調べることから始めました。そして、毎年それをCSVレポートという形で公表し、毎年、自社が社会価値を創造しているかを目標値の設定とともにモニターしています。

 このブラベックの経営観を紹介した書籍『知られざる競争優位』が発売になりました。詳細は本書に譲りますが、本書を読むとグローバルな視点で企業を経営する姿勢とは何かが実によく分かります。

 僕も3年前にブラベックにインタビューしたことがあります。実際のブラベック氏は、大きな体と優雅な動き、そして優しい眼差しから大河のような大きさを感じる人でした。この時「ネスレがCSV活動を行うのは、世界トップ企業としての誇りからですか」としたら、ブラベックは笑みを浮かべながら「そんなふうに考えたことは一度もありませんよ」と一蹴されました。そして、これは事業戦略の一環に過ぎないのだと繰り返されました。この悠然とした構えこそ、140年続く世界企業のトップならではの思考だと実感しました。それは、企業活動と社会価値の創出は切っても切れないものであることを、身を以て体験してきた人の自信の表れでもありました。(編集長・岩佐文夫)