4人は絵にどんな思いを込めたのか

 これまでのやり取りを見ていたあるスタッフは、私にこっそりと耳打ちしました。

「吉田さんが町工場のおやじさんにしか見えなくなっちゃいました」

 たしかに、世界を代表する企業の会長然としたところをまったく感じさせません。それでも従業員だけでなく、初対面のワークショップのスタッフを巻き込み「吉田ワールド」をつくりあげてしまうカリスマ性には感服しました。吉田ワールドに体と心の一部を持っていかれながらも、淡々と、着実に我が道を突き進んでいく3人の社員のみなさんの芯の強さと、実直な人柄にも感嘆しました。そんな4人のみなさんは、どのような絵を描き、その絵にどのような思いを込めたのでしょうか。

 まずは道休さんからです。道休さんが働くうえで大切にしているのは「どうなるかではなく、どうするかを考える」ことだといいます。

「右上に向かって勢いをつけてみたかったのでこういう構図にしました」

 道休さんは開発業務を担っているので、開発するときに大切にしていることを絵に込めてみたといいます。

「中央が細くなっているのは、ホースの水を勢いよく飛ばすのと一緒です。開発という仕事は当初の予測と異なることも多く、途中に困難があって、それでも成功させるには熱意がかなり重要になってきます。そこを乗り越えれば、勢いがついて課題が解決していく。それは難しいことだけれど、絶対に成功させるという思いを描きたかったんです」

 道休さんは、タイトルを「ブレイクスルー」と名づけました。

 続いては濱崎さんです。

「仕事をするうえで大切にしているのは、誠実さです。まじめに、しっかりと仕事をしたい。そんな思いを強く持っています」

 ただ、と温和な表情から熱い言葉が飛び出します。

「これまではなかなか表に出せなかったのですが、こんなことをやってやりたいという熱意もあります。せっかくの機会なので、それを絵に表現したいと思って描きました」

 濱崎さんは、この絵にもうひとつの思いを込めたといいます。

「最近、チームワークについて考えるようになりました。人と人が混ざり合うというのはなかなか難しいと思いますが、とはいえ協力し合って上を目指していくのは大切だと思います。そんな思いも込めたのですが、それが伝われば嬉しいですね」

 タイトルは「スパイラル」とつけられました。

 3人目は見角さん。

「仕事は好きでやっていることなので、この絵も自分の好きな色だけ、つまり黄色やオレンジを使って描くということを決めて臨みました」

 さらに、構図にも深い意味があるようです。

「最初は、三角形を描くか四角形を描くか迷いました。でも社会人、エンジニアとして仕事をしている自分、学生として社会人ドクタ-(大学院で学んでいる)としての自分、そして母親としての自分という三つが私の土台となっているので、三角形にしたんです」

 そんな見角さんがつけたタイトルは「全力前進」です。

 トリを飾るのは吉田会長です。

「原点は、自分が生まれ育ったところという意味を含めた大自然です。私たち人間は自然の強さ、自然の怖さ、自然の大きさを受け入れ、自然に挑戦し、自然の美しさを大事にしながら仕事をしていきたいという思いがあります」

 描く時間とは打って変わって、思いを真剣に語る吉田会長。

「海も空も緑も汚したくない。そのうえで、少しでも上がっていく道がある。そんな仕事をしたいという意味で、この絵を描きました」

 そして、タイトルは「美しきもの」と名づけました。

「これには、自然そのものという意味と、大事にしなければならないものという意味があります。美しいものは、きっと人類に理解されるでしょう。であるならば、そんなものをつくり上げていきたい。そう考えています」

 吉田会長は、こうした思いだけでなく、ワークショップを経験することで初めて気づいたことがあるといいます。それはいったい何なのか。その答えは吉田会長のインタビューを収録したDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー5月号に書かれています。あわせてご覧いただければ、吉田会長の真意がご理解いただけると思います。