いったい何が始まるんだ?

 ワークショップの開催が決定したあと、YKKグループでは吉田会長と一緒に描くメンバーの人選に入りました。本社広報から人事部門に依頼し、これはという人材を選定したそうです。ただ、吉田会長は選ばれた社員のみなさんをよく知りません。社員のみなさんの間にも接点はあまりなく、交流もほとんどなかったそうです。

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長谷部貴美さん(中央)

 そこでYKKでは、ワークショップ当日、顔合わせを兼ねた事前ミーティングを開いたといいます。ワークショップへの不安、絵を描くことへの不安、いったい何をやらされるのかという不安。お気持ちはよくわかります。

「富山の人はまじめで無口。静かなワークショップになってしまうかもしれません」

 ワークショップをアレンジしてくださった広報グループの方はそう話されました。

 会場に集まった参加者のみなさんは、見るからに緊張感をたたえています。唯一、吉田会長だけがリラックスしているようです。ワークショップを主宰するホワイトシップ代表の長谷部貴美さんがワークショップ全体の流れ(鑑賞・描き方の説明・実際に描く・みんなで講評)を話している間も「自分にできるのかな……」という苦笑いにも似た固い笑顔を見せるのが精いっぱいだったようです。長谷部貴美さんは、自己紹介がてら今回の意気込みを尋ねることからワークショップを始めました。少しでもリラックスしてほしかったからでしょう。

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道休千枝子さん

 まずは、YKKファスニング事業本部商品開発部の道休千枝子さんから。

「私は新しく開発された商品を、いかに早く事業化するかということと、そのための装置開発をやっています。普段から設計がらみで『ポンチ絵』は描いていますが、今回の絵はそれとはまったく違います。やったことのないことを楽しみたいと思います」

 YKK APの開発本部商品開発部の濱崎慎一さんは、ウォールエクステリアの開発を担当しているといいます。

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濱崎慎一さん(左)と見角裕子さん(右)

「普段はCADを使って図面を描いたり、商品のデザインを考えたりしていますが、色のある絵にはなかなか触れる機会がありません。初めての挑戦。頑張りたいと思います」

 続いて、YKK工機技術本部でエンジニアを務める見角裕子さんです。

「当社は、ファスニング事業など商品を製造するための設備や金型も自社開発していますが、私はそのうちの金型の材料開発を担当しています。職種柄、普段はグレーしか接していないので、色とは縁遠いかもしれません。どうなるかわかりませんが、よろしくお願いいたします」

 最後は、吉田会長です。

「えーと、YKKの……」

 会場は笑いに包まれます。自己紹介しなくても、当然みんな知っています。

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吉田忠裕会長

「えーと、やっぱり自己紹介します?」

 不要ですね。

「あまり何をさせられるのか、何をすればいいかわかっていなくて、とにかく言われるままにやろうと思っています。この話を聞いてから絵が気になって、今日も午前中に保育園に行く機会があったので、保育園児の絵を見て勉強してきました」

 吉田会長の自己紹介で、場は一気にリラックスしてきました。