エッジ効果

 生態学者は、上記に述べた現象を「エッジ効果」と呼ぶ。これは、1930年代に米国の環境保護活動家アルド・レオポルドが生み出した言葉だ。彼は、なぜウズラやライチョウなどの狩猟鳥が、平原や森林など単一の(同質的な)生息域よりも、異なる環境が交わる緑地部分に多く見られるのかを説明する際に、この言葉を使った。その推測によれば、「1つ以上の生息域に同時にアクセスできる利便性」と、「周縁部では植生がより豊かであること」が、生物種の多様化と繁栄を促すという。

 その後、この境界部分は科学者らによって「エコトーン」(移行帯)と名付けられた。古典名著Fundamentals of Ecologyで知られるユージーン・オーダムが、1950年代にこの概念を世に広めるうえで貢献している。その説明によれば、移行帯とは「2つ以上の異なるコミュニティが重なり合う地域・地帯」であり、森林と草原の境目や、海と陸の接点を指す。

 動物・植物の両方にとって最も多様性と好機を享受できるのは、2つの生態環境が交わるところ、たとえば森林の周縁、沿岸、湿地帯、断崖、山腹、河口、サバンナ、ツンドラ、砂漠などである。こうしたエッジでは、両方の生態環境における個体群、資源、栄養物、光、食べ物などが混在する。2つの世界が組み合わさって独特の豊かな環境が形成されるため、なかには移行帯でのみしか生きられない生物種もある。

 意外なことではないが、学者たちは自然界の移行帯という概念を応用し、貿易港、さらにはそれらを結ぶ貿易航路を「経済の移行帯」と見なした。

 この種の移行帯はまた、異なる文明が交わるエッジにも多く存在する。大きな交易路が、世界各地の大都市において発展の種撒きと媒介の役を果たした。英小説家ラドヤード・キプリングは、数々の文化の交差点が集まる大幹道(バングラデシュからアフガニスタンまで伸びる、アジア最古・最長の道路)を形容して「世界にも類を見ないような、生命の川」と記している。

ビジネスにおける3種の移行帯

 移行帯という概念は個々の事業にも応用でき、大きな効果が得られる。我々が観察してきたところ、この「移行帯にある金脈」や「中間部分にあるチャンス」は、個々の企業レベルでも確実に存在する。これらの現象は自然界のそれと同様に、よく知られているものが多く、ひとたび認識できれば当たり前のようにさえ思える。ただし、それらを活用する前に、まず見つけなくてはならない。事業の輪郭を成す多くのエッジは、次のようなところにある。

1.自社と顧客が接する部分

 企業が取り組む全活動のなかで、この移行帯は最も重要であり、当然ながらすべての金銭が創出される場所でもある。しかし、先に挙げた数々の移行帯と同じように、製品・サービスを取り巻く境界線は概して曖昧なものだ。企業は顧客の要望をしばしば見誤り、顧客も企業の提案する価値を誤って解釈することがある。

 テーマパークに行ったことがある人や、クルーズ旅行の経験がある人ならば、この移行帯をおわかりいただけるだろう。まず1つの考え方として、提供されるものを楽しむためには参加料や入場料さえ支払えばよい、ということがいえる。実際、それ以上一切お金を使わなくても参加していられる。他方、少額(そうでない場合もあるが)の追加料金を払えば体験を向上できる、無数の機会が用意されていることもご存知だろう。これらの企業は、中核商品を取り巻く曖昧な境界を巧みに活用しているのだ。

2.顧客とのインタラクションにおける時間的な要素

 これ自体がエッジを形成する。自然界のアナロジーでいえば、昼から夜へと変わる夕暮れ時に生じる混沌と融合は、動物たちに格好の捕食機会をもたらす。したがって多くの哺乳類や鳥や昆虫の活動は、この時間帯に最も活発になる。

 企業もまた、時間的な移行帯に焦点を当てる。顧客との関係は、探索的な買い物から生涯にわたる取引までさまざまだ。このインタラクションの期間、つまり顧客関係の開始点と終了点を、少し変えるだけでも明らかな効果がある。

 食べ物を探している状況を考えてみよう。あなたが今日スーパーを訪れたとして、レタスのようなありふれた商品に企業が見出したチャンスについて、深く考えることはないかもしれない。しかし、レタス1玉を買う客にとって食事までのプロセス(ジャーニー)はまだ終わっていない、ということに誰かが気づいた。客は食べる前にレタスを洗い、刻む必要があるわけだ。

 この単純な気づきによって、コモディティであった生産物を、利益率の高い調理済み食品へと変えることができたのだ。1ステップ先まで行くことで消費者を助けるというやり方は、たとえばホールフーズ・マーケットのような企業にとって、自社の経済性を変革し顧客との関係を強化するための重要な手段となっている。

3.集合的にビジネスを規定している、有形・無形の全資産

 ここにもエッジが存在する。自社の資産を入念に棚卸ししてみれば、事業にとってどれが核であり、どれが核でないのかを分ける要因の多くが曖昧なことに気づくはずだ。場合によっては、それらのリソースやケイパビリティは、活用方法そのものを再考する余地が見つかるかもしれない。それによって資産自体のエッジが商機となる。

 意外ではないと思うが、トヨタは日本で売る車載GPS付きの車両すべてに、ナビサービス用のデータを創出する技術を組み込んでいる。より興味深い点として、同社はこのデータの価値が、カーナビという本来の用途のみに留まるものではないことを認識した。我々の著書でも述べているが、この洞察によってトヨタは、交通情報のテレマティクスサービスという新事業の立ち上げに成功した。全国の企業と自治体が、同社の交通データを利用できるサービスである。