サプライチェーンが勝負を分ける

――新興国市場と先進国市場の違いについて、もう一つの研究はどのようなものですか。

 二つ目の研究は、新興国市場での成功要件に関するものです。様々なグローバル企業が新興国に参入していますが、データを見ると、同じ業界でも国によって市場シェアがトップの企業はバラバラです。ある企業が展開する商品・サービスはどの国でも基本的に同じはずなのに、どうして国によってこうも差が出るのでしょうか。

 さらに深掘りすると、商品・サービスも重要なのですが、それと同じかそれ以上に、販路と流通アクセスを持ち、そこで高い実行力を持つことが重要なことが分かります。新興国市場での市場シェア順位の説明要因としては、市場へのアクセス能力の方がより重要なのです。ここから言える一つの示唆は、新興国市場で成功するには、商品・サービス以上に、販路や流通アクセスを徹底して考え抜き、その実行力を高めなければならないということです。サプライチェーン・マネジメントの質が想像以上に結果に影響する、と言い換えてもよいでしょう。

――企業としては、まずは商品が良ければ売れると考えてしまいがちです。

 そうですね。しかし、新興国で苦戦している企業でも、提携や自前の投資で強いサプライチェーンを持てれば、短期間に売上を数倍に拡大できることがあります。ディストリビューション網に対して過少投資になっている企業が、意外に多いのです。

――他に、EMIの研究で特徴的なものはありますか。

 たとえば、シンガポールの立地を生かして、成功しているアジアのEMNCとの共同研究を行っています。EMNCが直面する課題の一つが、グローバル化です。自国でトップになり、地域で有力プレイヤーになった今、グローバル企業への道を目指すのです。

 グローバル化へのそれぞれのステップで、求められる能力は大きく変わります。そこで、EMNCと共に、どのようにグローバル展開に求められる能力を構築していくか、変化に持続的に対応できる組織をどのように作っていくかを研究しています。

――変化への持続的な対応は、EMNCによく見られる成功要因の一つですね。

 その通りです。このインタビュー連載で以前、INSEADのチャットパディヤイ教授が話していた点です。

――新興国発のグローバル企業に、トップビジネススクールも強く関心を持っているとは、遠い日本では少し想像しにくい状況です。興味深いですね。

 実際のところ、我々は新興国発の大企業だけでなく、スタートアップ企業にも注目しています。たとえば、新興国の起業家が、自分の成功だけでなく、社会全体にインパクトを与えることを目指して起業し成長する過程を追いかけています。この研究は、起業家の動機づけとして、単なる事業の立ち上げよりも、社会をより良い場所にすることが重要で、かつそうした視野の広い起業家が新興国に生まれつつあることを実証しています。

――なるほど。EMNCを見ても、社会課題の解決は新興国での成功のカギとなることがありますね。

「儲かっている大企業だけが、社会貢献する余裕がある」と考えがちですが、実際には小さいスタートアップ企業でも、「世界を変える」という強い志向を持っています。我々は、こうした小企業の成長も見逃せない動きと考えています。というのも、国の経済発展を支える基盤は、中小企業にこそあるからです。新興国が持続的に成長するためには、スタートアップも含めた中小企業の成長が欠かせません。