●インセンティブ

 インセンティブは3種類に大別できる。すなわち、即時的(対義:遅延的)、確定的(対義:不確実)、外発的(対義:内発的)なものだ。

 即時的なインセンティブは遅延的なものに比べ、心理的に魅力が大きい。人間はより近い将来に報酬を得られるほうが、さらに熱心に働く。たとえより長く待つほうが多額を得られるとしても、である(英語論文)。ここでの教訓は至って簡単だ。モチベーションを高めるには、即時的なインセンティブのほうがよい。

 また、人は価値が不確実なインセンティブよりも、確実なものを好む。たとえば、販促で買い物客に提示する特典が不確実な場合よりも(例:200ドル以上購入すると30ドルまたは50ドル割引)、確定的であるほうが高い効果を見込める(例:200ドル以上購入すると40ドル割引)。

 ただし、不確実なインセンティブがやる気を喚起するケースもある。潜在的な価値がより高いと思わせれば、人はプラス思考になり、それを手に入れようとするモチベーションが上がる。そして刺激を感じ、いっそう努力するようになるのだ。

 ある実験で、被験者に一連の印刷広告を評価してもらい、インセンティブとして確定的または不確実な金額を提示した。「確定的」条件のグループには、基本報酬の50%相当額のボーナスが支払われると伝えた。「不確実」条件のグループには、ボーナスの額は基本報酬の20%または50%で、くじ引きで決まると伝えた。すると、50%のボーナスを確実視した前者は、金額が決まっていない後者よりも作業効率が悪かったのだ。

 この結果から、次のことが示唆される。報酬に「ミステリー」の要素(たとえば報酬額の不確実性)が加わることで、刺激(ワクワク感)がもたらされ、よりいっそうの尽力につながるのだ。

 インセンティブには、外発的なもの(金銭やその他の従業員特典など)と、内発的なもの(満足度の高い仕事など)がある。両方が満たされることもある。給与がよく、仕事にもやりがいがあるような場合だ。しかし、外発的なインセンティブを増やすことは往々にして、内発的なメリットを見失わせることにつながる。

 未就学児を対象にした実験では、こんな結果が示された。食べ物を「体によい」と強調して勧めると(外発的メリット)、食べようとする意思が低下した。子供はその食べ物がおいしくない(内発的メリットの低減)と考えたからだ(英語論文)。

 また、人は目標への取り組みを始める前よりも、取り組んでいる最中のほうが、内発的なインセンティブをより重んじるようだ。就職先を選んでいる最中の人が、職務内容や従業員の士気などよりも、給与などの外発的なメリットのほうを重視しがちなのはこれが理由である。しかし実際に職場に通い始めると、内発的な動機をより強く意識する(英語論文)。したがって、有形のインセンティブを強調するタイミングは、取り組みの前のほうがよい。すでに何かに取り組んでいる従業員のモチベーションを高めるには、より内発的な動機づけを利用すべきだ。

 自分の中にある内発的インセンティブの価値は、自身ではわかりにくい。同様に、他者にとって内発的な動機がいかに重要かも、人々は十分に理解していない。仕事の面白さや士気は自分にとっては大切だが、同僚にとってはそれほどでもないだろう、と考えがちだ(英語論文)。その結果、他者のモチベーションアップを促す際には、自分自身を動機づける場合と比べ、内発的なインセンティブの活用を控えてしまうのだ。

 以上で述べてきた行動科学の研究成果は、自分自身と他者のモチベーションを向上させるための指針を与えてくれる。

 留意すべきポイントは3点に集約できる。第一に、仕事への意欲を高めるにはポジティブなフィードバックを与え、進捗の遅れを理解させるには批判的なフィードバックを与えること。第二に、短期的なサブ目標を設定すること。人の働きはプロジェクトの中盤より、最初と最後のほうが迅速かつ質が高い。最後に、即時的、確定的、内発的なインセンティブの価値を過小評価しないこと。ただし、それらが奏功しない場合もあることを心得ておこう。

 モチベーションを高める最良の手段を選ぶことは、単なるアートではなくサイエンスなのだ。

まとめ:自他のモチベーションを高めるには
■2種類のフィードバックを使いわけよう
・目標への始動時にはポジティブなフィードバック、ゴールが近づいたら批判的なフィードバックが有効。
■目標をうまく設定しよう
・達成可能で短期的なサブ目標を設ける。
・序盤ではこれまでの進捗に目を向け、ゴールが近づいてきたら残りの道のりを意識する。
・個々の目標に適した達成方法を選ぶ。
■インセンティブの原理を理解しよう
・即時的な報酬(目標達成と同時にボーナスが出るなど)はモチベーションをいっそう高める。
・目標への始動時には、確定的かつ明確な報酬を重視する。取り組みの途上では、不確実で「ミステリー」要素のある報酬を活用する。
・取り組みの序盤では、外発的なインセンティブで動機づける。完遂への動機づけでは、内発的なインセンティブを重視する。

HBR.ORG原文:Match Your Motivational Tactic to the Situation January 08, 2016

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ジュリアナ・シュローダー(Juliana Schroeder)
カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス組織マネジメントグループ助教。

 

アイエレット・フィッシュバック(Ayelet Fishbach)
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのジェフリー・ブレーケンリッジ・ケラー記念講座教授。行動科学およびマーケティング論を担当。