人工知能の活用場所が現在広がりつつある。百貨店の三越伊勢丹は洋服のコーディネートの提案に人工知能を活用する試みを開始した。いまなぜ百貨店が人工知能を活用するのか。その理由を三越伊勢丹婦人・子供統括部の鈴木貴之氏に聞いた。
ツールとしての人工知能

鈴木貴之(すずき・たかゆき)
――百貨店の店頭に行かなくても、ネット上であらゆるものを購入できる環境になりました。貴社での取り組みに変化はみられますか。
鈴木 店頭で販売するかネットで販売するかにこだわるのではなく、三越伊勢丹としてオムニチャネルをいかに推し進めていくかが、これからは大切になると感じています。お客様のライフスタイルのさまざまな場面で「三越伊勢丹」を活用して頂きたい。そのために、お客様との接点を増やすことに取り組んでいます。
――プロのスタイリングセンスを学習させた人工知能を搭載したアプリを、期間限定で体感できるプロモーションを実施されています。人工知能を活用しようと考えられたのも、お客様との接点を増やすためでしょうか。
そうですね。今回のアプリでは、30代~40代女性の支持が厚い、2人のスタイリストの方にご協力頂きました。人気スタイリストのセンスを学習させた人工知能を搭載したアプリが、今春の新作コレクションの中から、自分の好みに合わせたコーディネートを提案してくれます。アイテムの中には、三越伊勢丹オリジナルブランドのアイテムも多数いれていますので、まず三越伊勢丹との接点が生まれます。
また、アプリをダウンロードして頂き、自宅でスタイリストの提案してくれるコーディネートを見ることができますし、その商品を予約して店頭で実際に確かめることも可能です。来店頻度という接点を高めることにも、人工知能が貢献してくれると思っています。
それとともに、われわれの本業は人を通した販売です。人の販売の強みを伸ばすツールとして、人工知能を活用したいという思いもあります。それも理由の一つです。
――人工知能を販売員の代わりにするようなことは目指していないと。
はい、お客様と出来た接点を深堀りするツールの一つとして、人工知能があると考えています。販売員は提案のプロですが、何十万、何百万通りの着こなしを頭に入れることは、現実には難しいです。接客の際に、人工知能が膨大な量の中から、お客様の好みに合いそうなものをある程度絞り込んで提案してくれれば、販売力を補完するツールになると思っています。
人工知能を活用することで、店頭の販売員を減らすという発想はまったくありません。販売員の数はそのままに、より深い接客をするのが目的です。