「内なるガバナンス」を補う「外からのガバナンス」

 企業組織のガバナンスを考える場合、企業の「内と外」に分けてみると有益だ。前者は企業組織内部の仕組み・ルールを通じて実行される、常勤の役員・社員による事業の計画や実施、内部監査部門や社内の監査役による監査などである。

 日本企業は「わが社」として共同体的に運営されていることが多い。学卒入社・終身雇用・年功序列はその構造の支柱だ。その利点は情報共有が容易なため、全体の方針が正しい限り、組織一丸となって大きな力を発揮できることだ。ただし、歪みも生じ得る。サラリーマンとして、上司や上層部のイエスマンになり易く、方針が間違った時の修正が早くできない場合がある。内部監査部門や社内の監査役による監査など「内なるガバナンス」は本質的に脆弱性を抱える。

「内なるガバナンス」に対置されるのが、株主から経営陣に対する働きかけを典型例とする「外からのガバナンス」だ。情報伝達や共有が内部ほど円滑ではなく、直接性は弱いと言う弱点はあるが、組織のヒエラルキーによる歪みは少ない。多くの日本企業では、「外からのガバナンス」を効果的にすることが必要だ。

 こうしたガバナンスにおける働きかけは、経済学者アルバート・ハーシュマンの言ったように「ボイス」(意見)と「エクジット」(退出)に分けてみると理解が深まる。まず、投資家(株主)の働きかけとしては、ボイスは議決権行使による意思表示、エクジットは株式売却であり、双方の対応が可能だ。次に、社外取締役は取締役会での意見(ボイス)で役割を果たすが、可能性としてはエクジット(辞任)もありえる。さらに、常勤の役員・社員の働きかけは、日常の業務の中での意見(ボイス)であり、エクジットは通常考えない。このように、ガバナンスが外側から内側に進むにつれ、ボイスが中心となりエクジットの比重は減る。

 日本企業では、エクジットの機能も含んだ「外からのガバナンス」が、脆弱な「内なるガバナンス」を補うことが特に必要だ。内外のガバナンスが出会う結節点の一つとして重要な場が、企業の取締役会である。そこでは、投資家からの要請と、実態として人的な集団である企業組織の運営上の要請が、正面からぶつかることもあり得る。それ故に企業を巡るステークホルダーの調整の焦点として指導力を発揮し、企業組織を統率していく中核、すなわち企業の頭脳=作戦本部として機能することが望まれてもいる。つまり、企業統治の課題は、現実には取締役会が実質的に機能しているかどうかという問いに帰着することになる。