「初音ミク」はみんなで育てた日本のポップカルチャー

――デジタル技術が進展する一方で、ポップカルチャーやクリエイティブパワーに期待される役割は何ですか。

 「未来はこうなるぞ!」という構想図をつくることだと思います。かつて、デジタル化が進み始めたばかりの頃は、近未来社会を描いたアニメや漫画、映画などが盛んにつくられました。もちろん、当たっているものもあれば、大きく外れたものもあります。しかし、重要なことは正確な未来を予測することではなく、未来を考えるためのヒントを提示することです。

 「AIとロボットで人の仕事は半分くらいなくなるよね」「ロボットが人間の味方なのか敵なのか」……。こんな議論をいくら重ねても新しいものは何も生まれません。そうではなく、味方になるロボットをつくりだすことがクリエイターの責任だと思います。革新的技術によって世界はどんどん変わっていきますが、何をつくって、どう変えていくのか。その未来図を描いたり、実際につくったりすることが、クリエイターには求められていると思います。

――デジタル技術とポップカルチャーが融合することで、日本の経済や社会が抱える課題を解決することは可能ですか。

 十分可能だと思います。すでに実績もあります。その典型はファミコンです。ファミリーコンピュータというテクノロジーとゲーム・コンテンツの融合です。映像はそれまで見るものでしたが、ファミリーコンピュータの登場によって、遊べるようになりました。メディアに対して革命的な変化を起こし、大きな産業を生んだと思います。

 最近の大ヒットは、なんといっても「初音ミク」でしょう。2012年のロンドンオリンピックの時に実施された世界的なアンケートでは、「開幕式で歌ってほしいアーティスト」の1位にもなりました。結局、実現せず、ポール・マッカートニーになったのですが。いずれにせよ、初音ミクが世界のスーパースターになったことは間違いありません。

 初音ミクはボーカロイドという音声合成技術とポップカルチャーの融合によって誕生しました。ボーカロイドの技術によって、作詞・作曲のデータをインプットすれば、歌声を合成できます。一方、ミクというかわいいキャラクターは典型的な日本のポップカルチャーです。

 実は、もう一つの大きな要素があります。それは、「みんなで育てた」ということです。ニコニコ動画というソーシャルメディアを使って、作詞・作曲ができる人、イラストが得意な人、歌ってみた、踊ってみたなど、不特定多数の人が、自分のノウハウを持ち寄り、ネットの上で育てました。これら三つが融合することによって、世界的なスターに育ったのだと思います。

 日本の強みは技術とポップカルチャーの両方を持っていることでしょう。加えて、一般の人のクリエイティブ能力が非常に高いことです。たとえば、日本のごく普通のお母さんは、世界の料理やキャラ弁を普通につくってしまいます。これには世界中の人が驚くわけです。初音ミクに対しても、ごく普通の人たちが気軽に音楽や踊りなどを提供しました。だれでも参加する文化レベルの高さが日本の一番の強みかもしれません。