VUCAを理解し、みずから変革を加速せよ

――昨今、ドイツでは「インダストリー4.0」というコンセプトがメジャーになっております。世界的にIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の議論が進んでいますが、まだ実用化に課題を残す企業も少なくありません。一方、ドイツではインダストリー4.0を活用したビジネスがどんどん生まれています。なぜドイツではそれができるとお考えですか。

「日本は依然として非常に強い競合だと思います。ただし、たとえばIoTなり、インダストリー4.0なり新しいテクノロジーを活用し、また、みずからの組織を変革することでそれを加速させなければ、さまざまな問題に直面するとは思います」

 それには3つの複合的な理由があると考えています。第1に、数年前から、ドイツ政府が非常に真剣に取り組み始めたことです。それは、グリーンテクノロジーに対する施策を普及させたことにも似ています。

 第2に、ドイツの企業トップの意識が挙げられます。ドイツは非常に大きな輸出国です。そのため世界が金融危機に陥ったときも、ドイツはそれほど大きな影響を受けずに、むしろうまく乗り切ることで雇用を生み出し、そして富も生み出したわけです。ドイツの文化として、トップに立つ者は自分一人で楽しんでしまうのではなく、次に何が来るのか、将来何をすべきなのかというストレスにさらされていることが、そうした意識を養うのでしょう。

 このように、まずはドイツの政府が、これから国を挙げて進めていくことのプライオリティーを出しました。同時に、企業のトップが何をすべきかと考えるなかで、これは大企業も小企業も含めてですが、政府から来た提案が企業側とマッチングしたことで、より迅速に進んだと考えています。

 第3に、テスラやAirbnb、ウーバーに代表されるように、世の中では新しいLFP企業、新たなLFPネイティブの会社がさまざまな技術を使って生まれていますが、彼らが欧州でとてもアクティブに事業を展開していることは影響を与えました。その状況を見て、人々はいろいろと考えました。テクノロジーとしては魅力的だがプライバシーはどうなるのか、自動車メーカーという枠組みは事業としてはもう終わりなのか、運輸業はいままでのようなやり方では駄目かもしれないなど、さまざまな危機感も同時に生まれてきたことが挙げられます。

 このように政府も企業も国民も、いまこれだけの変革が起きているなら何かしなければならないという危機感を持っており、そこでインダストリー4.0が出てきたと考えられるでしょう。ドイツの場合は技術があり、製造業の従来の強みがありました。そして、そうしたテクノロジーを大事にするというアートがあったのです。この3つが併さることでインパクトが生じ、大きな新しいものを生み出し、爆発したということです。

 2015年の春、LFPの環境のなかで、企業のテクノロジーによってそれぞれの業界にはどういう影響が出るのかを研究した結果を発表しています。プラスの側面としては、IoTまたはインダストリー4.0を使うことで、欧州全体に1兆2500億ユーロの付加価値が生まれます。ただし、この機会を逃すと6000億ユーロの損失が出ることがわかりました。

――一部ではフォルクスワーゲンに端を発する問題などもありましたが、ドイツは世界一の製造大国であり続けているのではないでしょうか。日本の製造業は、これからも彼らにとってのライバルになり得るとお考えですか。

 日本は依然として非常に強い競合だと思います。ただし、たとえばIoTなり、インダストリー4.0なり新しいテクノロジーを活用し、また、みずからの組織を変革することでそれを加速させなければ、さまざまな問題に直面するとは思います。他の多くの国は、まさにこの戦場の中で動いているわけです。5年先、10年先を見越していまを戦っている。その先、本当のリーダーであり続けるためには、こうした新しい動きをいかにマスターできるかにかかってくるでしょう。もしやらなければ、そこには痛みが出てくるということです。

 やはり大事なのは、VUCAという世界をよく理解して、みずから加速することで変革を進めて、TOCを満たすことだと思います。その結果として、本当に強い企業、本当に強い国が生まれます。たとえいまナンバーワンの地位にあっても、常に追い越される危険があります。常に安心することなく、先に先に手を打っていくべきではないでしょうか。

 

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