日本企業とEMNCのリーダーシップ

――多くの日本企業が「グローバル化」をめざす変革を掲げていますが、本当にやる気なのか、単に外から言われるから流れの中でフリをしているのか、微妙な例もあります。物事を変えると短期的に不具合が出るので現場は抵抗し、抵抗されると上も動かない。しかし、中途半端に努力して効果が無い位なら、最初から変革を打ち出さない方が現場も混乱しません。
そうした状況を打開するカギの一つがリーダーシップだと思います。しかし、ボトムアップで共同体意識が強い中、嫌われる意思決定があえてできるリーダーは少ない。あるいはリーダーのそうした意思決定を助ける仕組みがあまり無い。そのような課題があると感じます。

 まさしくその通りです。何をすべきかがわからないのではなく、わかっていてもできない状況ですね。

――日本企業のCEOについては、どう思いますか。どなたか優れたリーダーが思い浮かびますか。

 直接知っているCEOは多くありませんが、知っているCEOは皆とても印象的です。たとえば、武田薬品の長谷川・前CEOは自社を大きく変えました。企業戦略でもそうですが、組織の変革でも、先見の明を見せています。たとえば、かなり以前から社内で英語化を推進する、外国人幹部を一人雇うだけでは身動きが取れないことを想定し、まとめて幹部に外国人チームを登用する、取締役会にも外国人を入れる、女性リーダーを高い地位に就ける、など。

 これは、日本の文化や日本のリーダーが間違っているということではありません。グローバル企業になるとしたら、日本の視点だけに頼って成功するのは難しいということです。組織のメンバーはリーダーが本気かどうか、常にアンテナを張っているものです。長谷川氏が発した、真のグローバル組織を目指すというメッセージは、明確でぶれないものだったと思います。

――成功した新興国企業(EMNC)を見ると、多くが強い権限を持つ創業家に率いられています。こうしたトップダウン型リーダーシップがあることも、海外展開で成功の条件になるのでしょうか。

 創業家が経営して成功した例が多いのも事実ですが、注意しなければならないのは、それがいつまで続くかです。私の知るある企業では、かつて成功した創業者CEOが、70代になってもまだ現役でいます。しかし、事務所の壁の色から価格設定まですべて一人で決めてきたので、他に誰も決める人がおらず、とても危険な状態です。

 決められたプロセスに従うことで優位性を保てる間はよいですが、環境変化に対応した判断が求められるとすると、独裁的CEOの体制が最適とは思いません。

――そうした持続的な変化に対応するカギは、マネジャーたちがマインドフルであることなのでしょうか。

 そう思います。それに、そのような行動を促す組織であることも必要です。

――その点、EMNCについてはどう思いますか。EMNCの幹部層に話を聞くと、ある共通項があります。一つは、目標設定の際に、とにかく高い目標を与えることです。普通の企業が、データに基づいて合理的に説明できる数値を目標にするのと対照的です。そしてもう一つは、業績評価の際に、実績に加え途中の試行錯誤と学習を重視することです。普通なら目標達成か未達かの二択になってしまいますが。こうした仕組みは、マネジャーがマインドフルになりリスクを取る助けになると思います。

 それは大変興味深いデータです。意思決定科学の研究者も、それに強く賛成するでしょう。研究によると、いくつかの例外を除き、成果よりもプロセスを評価するほうが望ましいのです。なぜなら、最終的な結果は、本人のコントロール不能な変数で決まることが多いからです。人を評価する唯一の合理的な方法は、どのように意思決定に至ったか、つまり判断のプロセスを見ることなのです。

 しかし、現実にはプロセスに基づいて人を評価するのは難しく、結果だけ測定するほうがはるかに簡単です。それに、欧米諸国で結果主義が取られるのは、市場と企業との関係が理由です。経営幹部のボーナスは株価に影響を受け、その株価は「業績が予想範囲であること」に支えられます。四半期業績が予想を下回っても、「プロセス重視」と言い続けるのは無理でしょう。その前にリーダーがクビになり、キャリアにも傷がついてしまいます。

――それは重要な点です。いくつかのEMNCでも、事業ポートフォリオがあり、安定した事業では欧米式に結果を問い、新興市場や新規事業で特殊なやり方をすると聞きました。このような評価報酬の仕組みを適切な範囲で使えば、リーダーの助けになるのですね。