企業内理想主義者が果たす役割

 本書は、彼女のBPや国連で経験してきたビジネスと倫理をめぐる仕事を中心に、彼女のようなCSRを担当する「企業内理想主義者」たちについて述べられている。理想主義というと私たちは、「現実を見ずに夢ばかりを追いかける」というニュアンスを感じがちだが、ここで描かれている彼女をはじめとする「理想主義者」たちはそうではない。自社のビジネスを展開するために、従業員、顧客、取引先、仕入先、消費者、株主、地域社会、自治体や行政など多様なステークホルダーと関わり、積極的に対話をして良好な関係をつくったうえで、納得できる着地点を見つけていく。また、社内における理解を深めていくのも重要な仕事である。つまりは高度なコミュニケーション力と、リーダーシップ力が求められる仕事であることがわかる。しかしながら(「やはり」と言うべきか)、これらの仕事はなかなか評価されにくい。本書には、ある企業で大事故の処理を担当した担当者は社内での栄誉ある賞が贈られたのに、これまで安全対策に腐心してきたCSR担当者は何も評価されなかった、というエピソードも紹介されている。

 折しも昨2015年は、フォルクスワーゲンの排気ガス不正問題、東芝の不正会計問題など、世界的な大企業での不祥事が相次いだ。本書にもBPでのメキシコ湾での原油流出事故について触れられているが、いったん失った企業に対する信頼を取り戻すのは、大変なことであるのがわかる。私たちは、ややもするとCSRを事業や戦略とは異なる次元の経営課題としてとらえがちだ。しかしその価値を適切に評価する時が来ているのではないだろうか。