――3つ目の「撤退基準」というのはそもそも日本企業にはあまりない発想だと思うのですが。

 従来のM&Aではすでにビジネスとして成立している魅力的な企業を買うケースが多いため、撤退基準を考える必要があまりなかったからです。しかし、デジタルM&Aの場合は、海のものとも山のものともわからないような段階から新たなサービスやビジネスモデルの創造にチャレンジしていくため、不確実性が高く、撤退基準を明確にしておくことが必要です。

 いかがですか。従来のM&Aで重要だと思われていたこと、もしくは常識だと思われていたこととはずいぶん違うでしょう? この点を理解しておくことが重要なのです。

アクセンチュアのデジタルM&Aが
成功した3つのポイント

――アクセンチュアでは2013年にデザインコンサルティングの会社「Fjord」(フィヨルド)を買収しました。その際、対象会社を自社内のシステムに取り込むグローバルオペレーションモデルとは異なる方法を初めて採用し、成果を上げていると聞きました。成功の秘訣は何ですか。

 ポイントは3つあります。

 1つは、対象会社と自社の違い、共通点を明示化したことです。というのも、異なる良さを持った会社が一緒になると、必ずお互いが自分たちのやり方に固執して衝突するからです。そこで、対象会社と自社の違い、共通点を探すワークショップを実施し、その結果、4つの違いと5つの共通点がわかりました。

 違いの中で一番象徴的だったのは、アクセンチュアの人材は事実をベースにクライアントに改革の提案をするのに対して、クリエイター集団のFjordは直感に基づいたアイデアでクライアントに改革の提案をするという点です。当社は数字を持って理詰めで考えますが、彼らは「この発想いいよね、このアイデア面白いよね」という観点から価値を提供する。目的は同じでもアプローチが大きく違います。

 一方で、同じだったのは、お客様の成功は我々の成功である、仕事に対して執念を持って取り組むといった根本的な考え方です。

 このような違いと共通点を事前に明示化したからこそ、同じ価値観を持ったメンバーという共通認識の下、違う部分も認め、お互いに尊敬し合いながら、スムーズな協働関係を築くことができました。

 2つ目は、これまでの事業の延長線上にはない「野望を描く」ということです。

 Fjordもそうですが、多くのクリエイティブな会社は人材が能力の源泉となっています。ですから買収直後は、自由度がなくなるとか、仕事のやり方を強制的に変えさせられるのではないかといった危機感から一般に士気が下がります。最悪の場合、辞めてしまう人も出てくるでしょう。そうなると、企業の力が失われてしまう可能性があります。

 そこで、アクセンチュアのプラットフォームと顧客基盤を利用することで、「デザインとイノベーションの世界のリーディングカンパニーになる」という目標を立てました。これは、彼らだけでは描けない野望です。我々の本気度が伝わったこともあって、士気が高いまま、成功体験まで進むことができました。

 成功体験とは、Fjordとアクセンチュアの強みを融合させた提案によって、買収後およそ1年で金融サービス、自動車、消費財などの業界の世界のリーディングカンパニーとの新規案件を複数獲得したことです。このように、高速PDCAを回すことが3つ目のポイントです。