狙いは自社が持っていない技術を
早めに刈り取ること

――具体的にはどのようなデジタルM&Aが行われているのでしょうか。

 わかりやすい事例を2つ紹介しましょう。自動車メーカーのダイムラーでは、ライドシェアリング(相乗りサービス)の「Car2Go」を始めていますが、このビジネスのためにライドシェアリングアプリの会社やタクシー予約アプリの会社、自動運転用高精度地図の会社を買収しています。

 Car2Goかタクシーかレンタル自転車か、どれが一番早くて一番安いのかといった情報を配信する最適移動手段推奨サービスを提供しています。さらに、アプリと自動運転技術とを組み合わせ、リクエストに応じてクルマが自動で利用者を迎えに行く新たな都市交通サービスの展開も視野に入れているそうです。

 こうしたサービスの実現に向け、自社が持っていない技術を早めに刈り取って、自分たちのビジネスモデルに組み込んでいるわけです。

 また、先に述べた、自動車向け通信システムの会社であるcobraを買収したボーダフォンは、クルマにセンサーを付け、運転状況やスピードなどの情報を集めるテレマティクス技術によって、自動車保険事業者向けに運転情報を把握したり運送会社向けに配送ルートを最適化するためのソリューションなどを提供しています。M&Aによって必要なデジタル技術を取り込んだおかげで、新たな収入源となるビジネスモデルをいち早く実現できたといえるでしょう。

日本企業によるデジタルM&Aが
ほとんどないのはなぜ?

――欧米ではそうしたデジタルM&Aが加速しているようですが、日本企業の場合はどうでしょうか。

 日本企業を見てみると、事例は数少なく、あっても本業に近い会社の買収がほとんどですね。

 新しい事業領域への展開を加速させるためのデジタル・ケイパビリティ(企業の能力)を買いにいくというよりも、本業強化の意味合いが強いと思います。

 なぜ、こんなに少ないのか。「デジタルが戦略的な成長のカギ」という認識はあるのに行動を起こしていないというのは、目の前の市場環境を一変させるようなチャンスと脅威に気づいていないからなのではないでしょうか。

 いずれにしても、これからデジタルM&Aが必要になるのは確実なこと。ただし、従来の自社事業のスケールを拡大するためのM&Aとはやり方が大きく異なることに注意が必要です。

優れた技術の源泉は
どこにあるのかを見極める

――外部の能力を獲得するデジタルM&Aは、従来のM&Aと比べてどのような点が異なるのでしょうか。

 アクセンチュアは自ら、直近3年間で14のデジタル企業を買収しています。その経験をベースに違いや成功のポイントをお話しましょう。

 まず、従来のM&AとデジタルM&Aとの違いは、(1)価値評価の手法、(2)PMI(Post Merger Integration:買収後の統合)の思想、(3)エグジットクライテリア(撤退基準)の重要性です。

 従来のM&Aは、事業性とリスクを評価したうえで、事業価値を算定していました。しかし、デジタルM&Aの場合は、現状のビジネスの大きさや範囲で見えるリスクを評価しても仕方ありません。対象会社が持っているケイパビリティを自社に取り込み、現在の何十倍、何百倍もの規模の新しい事業を生み出すのが目的ですから、今の事業価値よりもそのケイパビリティが自分たちの考える事業構想に本当にフィットしているのかどうかを見極めることの方が重要です。

 次にPMI、つまり買収後の統合に関する思想も変えなければいけません。

 従来のグローバル企業は買収後、対象会社を自社のグローバルオペレーティングモデルに組み込み、自社と同じ仕組みで動かしていました。たしかに、この方が効率的ですね。

 しかし、デジタルM&Aの場合は、ケイパビリティが維持できるようなオペレーティングモデルを対象会社のためにつくるべきだと思います。強引に自社に取り込んでしまうと、環境の変化によって最も重要なケイパビリティが破壊されてしまう可能性があるからです。

 例えば、仮に先進的な技術を生み出している会社があり、その技術を買いたいケースでは、その技術がなぜ継続的に生まれているのかも見極めなければなりません。自らも優秀な技術者である社長のカリスマ性で技術者が育っているのか、あるいはトレーニングや育成プログラムのメカニズムが機能しているのか、技術者が喜ぶような仕事環境を提供しているのかなど、何かしらその技術を生み出している源泉があるはずです。それをしっかりと見極め、買収後もそのエコシステムを壊さずに、ケイパビリティを拡大できるかどうかを検討します。