④ トランスナショナル企業
 トランスナショナル企業においては本社と海外現地法人はパートナー関係にある。本社は長期ビジョンの下に世界戦略を作ろうとするが、本社だけで戦略を練るのではなく海外現地法人の参画も促す。ある分野に関しては海外現地法人の方が優れたコンピタンスを持っている場合があるからだ。本社は自分たちのやり方を押し付けるのではなく、時としては海外現地法人のやり方を取り入れ、従来のやり方を変えていく。本社と海外現地法人で力を合わせてイノベーションを進めていこうというスタンスである。

 例えば、Kit Katというイギリス生まれの伝統的なチョコレートを、ネスレジャパンが日本市場で地域色を演出したお土産商品に生まれ変わらせて市場拡大に成功したストーリーは非常に有名である。日本子会社の独自の発想で生まれたイノベーションだったが、このプロセスで得られたナレッジは、ネスレジャパンから即座に他の海外オペレーションにも伝播して、新しい試みが世界各地で起きつつある。

 トランスナショナル企業におけるリーダー人材の特徴は国籍の多様性にある。③のグローバル企業のGBLのほとんどが日本人であることとは対照的に、ネスレやユニリーバのようなトランスナショナル企業においてGBLになるのは本国国籍の社員だけではない。様々な国で選び抜かれ、グローバルキャリアとして採用された多国籍な優秀人材がGBL候補となる。そして、そのほとんどはビジネススクール出身なので基本的な経営知識は既に身につけている。会社は綿密に計画されたグローバルキャリアプログラムで彼らを若い頃から高負荷のビジネス環境で鍛え、彼らを最終的には会社の核となる“グローバルカドレ型”(特別に訓練された幹部)リーダーへと育成していく。

海外でのM&AとGBLの役割

 2015年末までの円安を追い風に収益力を改善した日本企業は、アジアや欧米の競合企業を積極的に買収してきた。2015年度の日本企業による海外M&Aは 10兆円を超え、2014年度の1.7倍にもなった。円安で買収金額は高くつくにも関わらず、これが海外事業を拡大する最後のチャンスとばかり活発なM&A戦略を展開したのである。一方で欧米におけるこれまでの研究によると、M&Aの50%以上が新たな株主価値を生み出せていない。それどころか、その内の25%は株主価値を下げてしまったと言われている。