攻撃してくるのは暇な連中

 ご参考までに、僕の好きな話を一つ紹介します。サントリーホールディングスの社長の新浪剛史さんから聞いた話です。よく知られているように、新浪さんは強烈なパーソナリティの持ち主です。ローソンの時から僕は仕事のお手伝いをしている関係で新浪さんを存じ上げているのですが、絵に描いたようなタフな経営者。豪腕で押しが強い。かと思うと、実に細かいところまで手が回る。例によって古いたとえ話ですが、立てばミルコ・クロコップばりのパンチ力、寝技ではヒクソン・グレイシーばりの絞め技、といった具合で、立ってよし、寝てよしの総合格闘家のような経営者です(この辺、ニュアンスが伝わるかな?)。

 そういう人ですから、三菱商事時代の若い頃は「あいつは生意気だ」と、周囲から責められたりいじめられたりする。ある時に新浪さんは、それまでを振り返って自分を責めてきた人をリストアップしてみたそうです。すると、いじめてくる人にもいろんなタイプがあることに気づいた。

 昔は責めてきたのに、いまは何もしなくなった人。昔はそうでもなかったのに、いまは何かにつけて攻撃してくる人。いまも昔も責めてくる人。いまも昔も責めてこない人──。これが何で決まるのかと考えてみた結論、これが面白いんですね。要するに「攻撃してくるのは暇な連中」。自分にやるべき仕事があって、それに没頭している人は人のことをいちいち気にしてああだのこうだの言ってこない。責めてくるのはその人にたいしてやることがなく、暇だからだ、というわけです。これに気づいた新浪さんは「外野の声は一切気にしなくていい」と割り切ったそうです。

 ミッド昭和の名作映画に黒澤明監督の『悪い奴ほどよく眠る』というのがありましたが、「暇な奴ほど責めてくる」(そう言えばハナ肇主演の快作に『馬鹿が戦車でやって来る』というのもありました。それにしてもこれ、秀逸なタイトルですね)。外野の余計な声が気になる時は、この言葉を思い出してください。暇な奴ほど責めてくる、馬鹿が戦車でやって来ているだけの話です。「自分がうまくいっていないから、鬱憤晴らしでたまたま私を責めてくるのね。余計なお世話よ……」とスルーするに限ります。

 あとは好きなようにしてください。


■連載バックナンバー
著者インタビュー:「好きなようにする」ことは、タフで厳しい
第1回:大企業とスタートアップ、どちらを選ぶべきですか?
第2回:営業成績トップなのに、降格を命じられました

 

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