1つ目の条件は「個人のアイデンティティ」を重視するものだ。このグループには、自分ならではの視点と強み、そして、それを仕事にどう活かせるかを考えてもらった。

 1時間のセッションにおける内容は、以下の通りである。

1.シニアリーダーが登壇。ウィプロで働くことが、自己を表現し、個人にとってのチャンスを生み出す絶好の機会になりうることを語る(15分)。

2.新入社員は、問題解決のエクササイズに個々人で取り組む(15分)。

3.新入社員は、エクササイズでみずからが下した決定を振り返る。その後、自分の強みを仕事にどう活かせるかを考える(15分)。

4.新入社員はグループに対して自己紹介し、エクササイズでの決定について説明する(15分)。

5.新入社員にバッジとフリースのスエットシャツが与えられる。どちらにも本人の名前が印字されている。

 2つ目の条件では、「組織のアイデンティティ」を重視する。こちらの研修は、「新入社員が最大の能力を発揮できるのは、この組織に所属していることに誇りを持ち、組織の規範と価値観を受け入れた時である」という前提に基づいて行われた。

 1時間のセッションにおける内容は、以下の通りである。

1.シニアリーダーが登壇。ウィプロの価値観と、ウィプロが卓越した組織である理由を語る(15分)。

2.スター社員が登壇し、同様のテーマで語る(15分)。

3.新入社員はスピーチの内容を振り返る。たとえば、ウィプロの一員であることが誇りだと感じたのはどの部分か、など(15分)。

4.新入社員はグループになり、振り返りの結果を話し合う(15分)。

5.新入社員にバッジとフリースのスエットシャツが与えられる。どちらにも会社の名前が印字されている。

 3つ目のグループは対照群として、従来通りの研修プロセスを受けた。会社に関する全般的な理解と技能訓練に焦点を当てたものだ。

 実験の結果はこうなった。個人のアイデンティティを重視した研修は、組織重視型および従来型の研修と比較して、入社後6ヵ月の時点でより高い顧客満足度の達成につながり、定職率も33%高かったのである。

 これらの効果は、実験室での対象実験を含む、別の環境でも再現された。組織よりも個性を重視した研修プロセスのほうが、従業員の態度・行動に好ましい影響を及ぼし、それは仕事への意欲や満足感などに表れる。そして離職率を低下させ、パフォーマンスを向上させる。

 自分らしさを表現することが重要なのは、単にそれが心地良いからというだけではない。新入社員が自分らしさを組織に対して表出すると、本人と雇用主のどちらもパフォーマンスを高めるのだ。

 我々の別の研究から、次のことが判明している。従業員が、ありのままの自分を認め受け入れてくれる他者と関係を築くと、その同僚と情報を共有し、協力する傾向が高まり、結果として生産性が上がる(英語論文)。そして、従業員が自身の頭脳も心も仕事に捧げることができると感じる時、イノベーションと創造性が促進される。すると顧客も、従業員が誠実に対応してくれていると気づくのだ。

 新入社員の自分らしさを尊重すれば、個々人に独自の価値観、モノの見方、そして強みを持ち続けるよう後押しできる。さらに、その強みを組織の問題解決に活かすよう促すことにもなる。企業は雇用開始時から、オーセンティシティを組織の中核的な価値観として示すことで、従業員の意欲と努力を引き出せる。のみならず、「ポジティブな逸脱」を戦略的に促進し、組織を新鮮でしなやかに保つことにもなるのだ。


HBR.ORG原文:The Powerful Way Onboarding Can Encourage Authenticity November 26, 2015

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ダン・ケーブル(Dan Cable)
ロンドン・ビジネススクール教授。組織行動学を担当。

 

 

フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクール教授。経営管理論を担当。著書に『失敗は「そこ」からはじまる』(ダイヤモンド社)がある。

 

ブラッドレイ・スターツ(Bradley Staats)
ノースカロライナ大学キーナン・フラグラー・ビジネススクール准教授。