一人ができることはたかが知れている

 以下は余談です。この相談をみていても思うのですが、やっぱり、若い時は自分が大切なんですね。だから、自分の身にネガティブなことが起きてはいけない、それは全力で回避したいと思う。若さというのはそういうものです。僕もご多分に漏れずにそうでした。

 ただ、年を取ると、世の中の9割は思い通りにいかないことがわかってくる。裏を返せば、しょせん一人の人間、そんな完璧を求めなくてもいい、と思えるようになります。

 民主主義と資本主義の現代日本(および他の多くの国や地域)では、昔の秦の始皇帝や徳川幕府の将軍のように、1人ですべてを思い通りにできるわけではありません。多少の差こそあれ、みんながまずまずイコールの土俵に立っているのがいまの時代です。これはよく言えば、平等だとかフェアだとか、誰にも可能性があると言えますし、裏返すと、しょせん一人の人間が社会の中でできることは、たかがしれているということです。あまり自分の人生を重たく考えないほうがいいと思います。

 世の中では数限りない人が生きています。一人の人間なんて、浜の真砂の一粒にすぎません。それでも、そうした無数の粒が集まって世の中ができている。そうした一粒一粒がなければ、世の中は成り立たないのもまた事実。それが人と人の世です。

 やはり人間は、自分のことが1番好き。僕もそうですが、自己愛は人間の本性です。若い時の自己愛の重みといったら、地球よりも重たい。だから、ちょっと何か言われたり、思い通りにならないことがあると、すごくショックを受けてしまう。ただ、特段努力をしなくても、年をとればショックもどんどん軽くなっていく。

 あなたにも「24歳だったら、自分の人生がひどく大切に思えるでしょう。でも、大丈夫。ホントは全然たいしたことないから」と申し上げたい。ご心配には及びません。10年、20年と仕事生活を重ねるうちに、自然とそう思えるようになっていきます。普通に生きているだけで、どんどん楽になっていく。ド中年の僕が保証します。

 そういうド中年になる日に乞うご期待です。その時を楽しみに、いまは好きなようにしてください。

 

※次回は2月22日(月)公開予定

■連載バックナンバー
著者インタビュー:「好きなようにする」ことは、タフで厳しい

 

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