豪胆な女性と繊細な男性

 テーマは「働くうえで大切にしていること」。そのイメージを画用紙に描きます。全12色の画用紙からどの色を選ぶか。そこから「描く」プロセスが始まっていきます。

 真っ先に紙を選んだのは山本さんでした。黄色い画用紙を手に取り、席に着きます。と同時に、さっそくパステルを手にして描き始めました。まるであらかじめ構図を決めていたかのように、躊躇なく画用紙に色を乗せていきます。

 大沢さんは紫色の画用紙の上で手を止めましたが、少し迷った末に「これでいってみるか」とつぶやいて赤い画用紙を手に取りました。やはり大沢さんも席につくと、すぐに白いパステルで格子模様を描き始めました。

 対照的だったのが岡田さんです。グレーの画用紙を手に取るまでは早かったのですが、そこからが長かった。パステルを使わず、指で円を描いたり線を引いたり、画用紙の上でシミュレーションを続けています。ふたりの描くスピードとパステルの音、指で画用紙をこする音に圧倒されたのか、ふと言葉を漏らしました。

「すごいなあ。最初の一歩で迷っちゃって……」

 これを聞いた山本さんは、サバサバした口調で言います。

「大丈夫ですよ。失敗したら消せばいいんです」

 岡田さんがようやくパステルを手にしたのは、ほかのふたりが描き始めてから10分後のことでした。

 周囲で様子を見ていたスタッフの間で一致したのは、最も不安そうにしていた山本さんの豹変です。誰よりも早く描き始め、パステルの音を強く鳴らし、10本の指をすべて駆使してパステルを画用紙にこすりつけていきます。大胆。豪胆。そんな言葉がふさわしい描きっぷりです。

 大沢さんは画用紙の真ん中に円を描き、その中心部にこだわりを見せていました。最初は親指で、続いて中指、人差し指を画用紙に押しつけ、ねじり上げるようにこすっていました。この動作を繰り返す大沢さんを見て、岡田さんが不思議そうな声を上げました。

「絵に魂を入れているのかと思いましたよ」

 大沢さんにそんなつもりはなかったようです。

「ただきれいに円を描きたかったんです。昔、数学のテストのときにコンパスを忘れた嫌な思い出があって、きれいな円を描くことにこだわってしまうのかも」

 一方、岡田さんは小指を使って繊細な部分を表現していきます。スタッフのひとりは「小指の魔術師みたいでしたよ」と話していました。ふたりより10分遅く描き始めた岡田さんでしたが、終わったのはふたりとほぼ同時。自分の絵を見ながら苦笑いを浮かべています。

「すぐ限界にたどり着いちゃったんですよ。自分への期待値が低いから」

 その言葉に、大沢さんは軽口を飛ばします。

「そもそも、僕は自分に期待してないですけどね」

 3人の絵は額に入れられ、ワークショップは鑑賞会に移っていきます。