グローバル社会に求められる
「21世紀型スキル」へのシフト

入山 ビジネスを見渡してマネジメントしていくスキルというと、何々を知っているとか、何々という技術を持っている、というのとは違って、スキルとして定義するのは難しいですね。

日置 そうですね。しかし、難しいながらも、そういったスキルを定義し、グローバルスタンダードを作ろうという動きがあり、最も顕著なのが「21世紀型スキル」です。これは、米国やオーストラリアなど6カ国の政府、教育関係者、企業が集まって立ち上げた国際団体「ACT21s」が提唱するスキル概念で、これからのグルーバル社会を生き抜くための必要な能力をいいます。

 具体的には、<1>思考の方法、<2>仕事の方法、<3>仕事のツール、<4>社会生活という4つのカテゴリーに即して、問題解決能力、コミュニケーション能力、コラボレーション能力、自立的に学習する能力など、10のスキルとして定義されています(*)

入山 実に広範ですが、そのままグローバル経営に求められるスキル、それを率いるリーダーに期待されるスキルと読み替えてもよいくらいですね。

日置 それもそのはずで、このプロジェクトの最初の呼びかけ人は、マイクロソフトやインテル、シスコシステムズといった米国のIT企業だったんです。2002年に、それらの企業を中心に「パートナーシップ フォー 21センチュリー スキル(P21)」が組成された際には、すでにこれらのスキル定義の原型はできていました。2009年からは、米国内だけでなく他国も巻き込んで具体的な定義と評価に進んでおり、彼らはすでに自社の人材にこれらのスキルの定着を図っています。

 さらに、彼らの活動は社内向けだけではないんです。例えばインテルでは、このスキルを子どもに教えるための教員向けのプログラムを日本でも提供しています。

入山 画期的なプロジェクトですね。私が教えている早稲田のビジネススクールも提携しようかな(笑)。米国のトップ企業は複数の国も巻き込んで、ここまで教育に力を入れてコミットしているわけだ。

日置 日本でも、例えばDeNAが小学1年生へのプログラミング教育の推進に取り組んでいたりしますが、企業横断で国も巻き込むような動きにはまだまだなっていないのが現実ですね。今年、前倒しで改訂されるといわれている次期学習指導要項の検討の中で議論は重ねられているようですが。

 ここまで体系的で現代的なスキルを多くの国の国民がしっかり身に付けたら、日本人はなかなか太刀打ちできません。しばらくしたら、子どものうちからこうしたスキルが必要だと定義され、学習と経験を積んで身に付けた人材がどんどん社会に出てきて、企業でもしかるべき地位を占めてくるでしょう。

入山 一方で、われわれの早稲田もそうですが、ビジネススクールに通う人が日本でも増えている。企業特殊的ではない、もっとジェネラルなスキルを身に付けたいという志向が高まっているからではないでしょうか。

日置 その傾向はあるでしょう。かつての日本の大企業は終身雇用で、企業特殊的スキルを持った人材が多数を占めていました。経済も右肩上がりで、経営陣も難しい意思決定が必要なくて、とりあえず、いいものを作れば売れた。しかもものづくり自体が垂直統合のすり合わせ型だったので、自社内ですべてが完結した。ところが、バブル崩壊後の失われた20年のうちにこのような条件がすべて反転してしまい、企業特殊的スキルさえ蓄積していけば、人生は安泰だと思っていた人たちの運命が一変してしまったわけです。

入山 21世紀型スキルのように、グローバルかつ業界の垣根も超えて通用するスキルのほうが大切だという風潮が出てきている中で、日本企業が強みとしてきた、少なくとも強みだと信じてきた人材のスキルの面でも後れをとるわけにはいきませんね。

ATC21s: The Assessment and Teaching of 21st-Century Skills