義手、義足と相性抜群の3Dプリンター

――3Dプリンター・ブームの時は、出力スピードの遅さも話題になりましたが、当時に比べるとずいぶんと進歩したのでしょうか。

 日進月歩です。速度は、2020年までにはいまの10倍速になるだろうと思っています。また、使用できる素材の種類は、初期のABS樹脂とPLA樹脂だけだった頃と比べれば20~30種類ほど増えました。もちろん、精度も向上しています。「精度」「速度」「材料の種類」は3Dプリンター技術の進化を測る代表的な工学的指標ですが、これは後戻りすることはありません。

 3Dプリンターが進化すれば、いずれ大量生産型の工場は不要になると盛んに言われていましたが、そんなことは起こらないと思います。従来の工場は、大量生産品に最適化したシステムを長い時間をかけてつくり上げてきました。それをわざわざ3Dプリンターに切り替えるメリットは見出せません。むしろ3Dプリンターの出番は、大量生産品ではつくれなかったものをつくるところにあると思います。

――どういった分野が3Dプリンターに向いているのでしょうか。

 私は、それぞれの「身体」にぴったり適合するものづくりが一番マッチしていると考えています。手足の形は一人ひとり違いますが、3Dプリンターは、そうした複雑な形をしたものの一品生産に適した技術だからです。具体的には、義足や義手をあげるとよいかもしれません。私の研究室のまわりにも、義手、義足の開発に取り組んでいるベンチャーの方々がいます。

 3Dプリンターでつくった義手、義足には二つポイントがあります。一つは、ある人の身体を3Dデジタルスキャンしてつくるので、完全にぴったりなものができることです。もう一つは、短時間で非常に安い価格でつくれるようになったことです。かつての義足は100万円以上していたものが、3Dプリンターを使えば数万円で可能になります。

 ただ、誤解してほしくないのは、3Dプリンターは職人の仕事を奪うものではないということです。現在、義手、義足づくりの職人さんはどちらかといえば減少していますから、私たちは、それを補うための技術として取り組んでいます。そのため、現場での実証実験を繰り返しているのです。

 いま、義手のほうは筋電義手を開発するExiiiというベンチャーと、義足のほうはSHCデザインというベンチャーと緩やかに連携しながら情報交換しています。大量生産とは異なるので、「研究開発」と「実用化」を明確に分けなくてもよいのです。どちらも、「研究開発を続けながら実用化のパイを広げていく」というアプローチだと思います。

 ですから、「実用化されているのですか」という質問には答えにくい。使っている人は少しずつ世界のなかで増えていく、いまこの瞬間にも少しずつ増えている、という感じだと思います。この感覚は、ウェブサービスのリリースと似ています。はっきりといつから「実用化が始まる」とは区切りにくいのです。

――義手、義足の分野ではIoTとの融合によって、どんなデータを集めていくのですか。

 ここから先の話は、義手、義足だけに限りません。ヘルスケアや健康、リハビリテーションなどに関わる分野の機器では、「1日に何歩くらい歩くのか」「身体との接合部がきつくないか」「当たる部分はないか」「そもそも1日どれくらいの時間使っているのか」といった基本的なデータを集めたいと思っています。「人とものの関わり」を広く知りたいのです。

 そもそもウェブサイトでは、「アナリティック」は当たり前になっています。1日何人がウェブページを見たか、1日どれくらいのダウンロードがあったか、そうしたデータが取得されて、次の改善に役立てられています。ABテストなどもありますよね。「もの」ではこれまで、こうしたテストが不可能で、一度製品にしてしまったら、それをユーザーがどのように使っているかということは、インタビューやアンケートでしかとらえられませんでした。しかし、IoT的な発想を組み合わせれば、ウェブで培ったやり方をそのまま「もの」に持ち込み、メーカーとユーザーが協力しながらものの機能を改善していくようなプロセスを生み出せる気がするのです。