企業文化は国の文化とイコールではない

――日本企業の多くが、日本企業であることをことさら強調します。それは将来も変えないし、だからこそ日本流のグローバルマネジメントを作らなければならない、という議論になることが多いと感じます。

 独自の経営手法を作り出すのはよいことだと思いますが、ある手法が日本人だからこそ、日本人だけを対象に通用する、という考え方には反対です。国が違えば、当然、経営慣行も異なります。それでも、その企業できちんと育った人なら、国籍に関係なくその組織を理解し、経営に携わることはできるはずです。たとえばマッキンゼーはかつてインド人をCEOにしましたが、マッキンゼーウェイとインドは全く関係ありません。

 企業にはそれぞれ固有の企業文化があります。その文化に本社所在地の国民でないと参加できないというのであれば、その論拠を聞きたいものです。

――海外人材の登用は、実務上メリットがあるのでしょうか。

 もちろんあります。国籍にこだわることは、自らを目隠しするようなものです。なぜなら、日本人もインド人も米国人も、世界観にはそれぞれ偏りがあるからです。

 かつて私は、ある韓国企業の経営会議に参加して、CEOを可哀想に思ったことがあります。そこでは、まずCEO以外の経営幹部が全員到着します。U字型に配置された会議室の席が埋まり、U字の頂点にある三席だけがきれいに残ります。最後に絶対者であるCEOがやってくると、緊張の中、左右の隣を空けた頂点の特別席に座るのです。私はその経営者が、残念な存在だと思いました。

 どうやってこの人は企業を経営するのでしょうか。誰も全知全能の神ではないし、世界は複雑です。だからこそ、信頼できる相手と意見を自由に戦わせ、多面的な視野を持つことが絶対に必要なのです。しかしその部屋にいたのは、韓国人だけでした。これでどうやって海外で勝てるのでしょうか。そんな状態は変えなければならないし、早く変われた企業のほうが、頑固に変わらない企業よりも勝つ確率が高まります。企業文化は国の文化とイコールではないのです。

――新興国企業は、グローバル人材マネジメントが得意なのでしょうか。

 新興国企業はその点では大きく遅れています。少数の例外を除き、ほとんどのEMNCがマルチドメスティック型のオペレーションで苦戦しています。経営手法が、まだ進出先の国ごとにバラバラな組織の集まりにすぎません。先進国企業もまだ万全ではありませんが、この点では先進国企業に大きな競争優位があります。

 しかし、EMNCは学習を始めています。最近、売上数十億ドル規模のある中国企業でワークショップをやった際には、参加者の国籍が米国やインドなど多様で驚きました。EMNCの一部は、要諦をつかみ始めているのです。

 インドのTataは明らかにその例です。経営トップ層に、インド人以外から人材を登用しています。同じくインドの製薬会社であるRanbaxyも同じような例です。買収されるずっと前から、人事のトップにアイルランド人を登用し、タレントマネジメントを進めていました。ゆっくりとですが、こうした共通理解が生まれているのです。

 また中国のLenovoは、全マーケティングをインドで統括しています。マーケティングのようなコア機能を、海外に完全移転した企業がほかにあるでしょうか。インドには優れたマーケットリサーチ会社が多く、広告デザインの人材も豊富で、マーケティング業務をきわめて低コストで外注できるとLenovoは言います。オスカーを受賞した “Slumdog Millionaire”という映画は、たった500万ドルでインドで撮影されました。欧米では、費用がはるかに高くつきます。

 機能分散でLenovoの得るアドバンテージは圧倒的です。 でもそのためには、現地に根付くことが必要です。インドに代理店を置いて市場調査をやらせ、本社は北京に置いたまま、という体制は機能しません。だからLenovoはバンガロールにマーケティング本社を移転したのです。彼らは、地理的な制約をグローバル最適配置で乗り越える経営を目指すステージに到達しています。

――日本からグローバル経営を考えるうえで、色々なヒントをいただきました。貴重なお話を有難うございました。
 

アミタバ・チャットパディヤイ
Amitava Chattopadhyay
INSEAD教授(マーケティング)

GlaxoSmithKline Chaired Professor of Corporate Innovation
ブ ランドとイノベーションの専門家。『ジャーナル・オブ・マーケティング』ほか一流誌に30年で60以上の論文を寄稿、『ジャーナル・オブ・コンシューマー リサーチ』の年間最優秀論文受賞。3つの国際論文誌でエディターを務める。コンシューマーリサーチ学会のボードメンバーを務め、現在アジアンコンシューマーリサー チ協会(シンガポール政府)のフェロー。近著The New Emerging Market Multinationals: Four Strategies for Disrupting Markets and Building Brandsは、ストラテジープラスビジネス誌の 「2012年ベストビジネス書」に選ばれた。MBAとPhDに加え、企業幹部向けコースを世界五大陸で教える。企業アドバイザーも務め、多国籍企業にコン サルティングを行う。フロリダ大学PhD、Indian Institute of Management(アーメダバード)PGDM。