「経営者登用の道筋」が見えない日本企業

――新興国で所得が低い顧客層に踏み込まないのは、日本企業の弱点だったと思います。

 重要なのは、現場に入り込んで、手を汚さなければ見えないことがあるということです。私は以前、インドに一週間滞在してみっちり市場理解を深めるという、企業幹部向けプログラムを企画したことがあります。現地から離れた本国で頭で考えたものを売ろうとしても、実際には売れないということを理解してもらうためです。そうした取り組みには、ただ現地滞在するだけでなく、適切なガイド役が必要です。インドに詳しい私がひな形を作れば、ブラジルや南アフリカなど世界中にプログラムが広げられると考えました。

 多くの企業が市場を本当には理解できていない現状を考えると、今こそそうした取り組みが貴重なものになるでしょう。

――日本でも、研修会社やNGOと組んで、そうした新興国プログラムを取り入れる企業が増えてきました。

 だとしても、「誰が行くのか」が問題です。なぜなら若い社員を送り込んでも、帰国してからの発言力が無いからです。意思決定者を参加させなければ意味がありません。コストはかかりますが、本当に目を開かなければならないのは意思決定層です。一度そうなれば、後はスムーズに進むからです。

――ヒトの話についていえば、グローバル人材マネジメントについては、どう考えますか。各国でイノベーションを起こすには、各国事情に詳しい人材を集めて活躍してもらう必要があります。それには、人材採用・育成・評価・異動などを、国を超えて最適化する必要があるといわれます。
 日本でも、グローバル人材はブームになっています。本当にグローバル化の取り組みがうまくいっている企業は多くないと思いますが。

 そのような仕組みはきわめて重要です。なぜなら、外国人の私だって、もしソニーに入ったとしたら、ゆくゆくはソニーのトップに上り詰めたいですからね。上昇志向と野心が強い人間なら、途中で失敗に終わったとしても、少なくともチャンスが与えられないと納得できません。

 それこそ、アングロサクソンの企業が誰よりも得意なところです。私の同級生だったインド人のIvan Menezesは、現在DiageoのCEOです。同じく同級生だったAjay BangaはMasterCardのCEO、同じインド人で言えばIndra Nooyi もPepsicoのCEOです。 英米企業は、人材登用に狭い考え方など持っていないのです。

 でもアジアは、まだそうした状況になっていません。インドでTata Motorsがインド人でないCEOを登用した例外はありますが、海外人材をトップまで引き上げる企業はほとんどありません。LGは南鏞(ナム・ヨン)CEOの下で改革を進めようとしましたが、ミドルの抵抗があり業績にも影響が出て頓挫しました。私の知っている日本企業では、ソニーがほぼ唯一、外国人を社長にしていましたね。

――他にも、オリンパスなど有名な例がいくつかあります。オリンパスは英国人がCEOになり、過去の経営陣の不正を告発して辞任し、大きなニュースになりました。結果を見ると、その他も含め今のところ成功例が少ないように思います。

 それでも、グローバル人材マネジメントを本当に進めるなら、外国人にもトップに上がれる道筋が見えなければなりません。そうでなければ、人は辞めていきます。優秀であればあるほど、「もうここでは十分働いたから、経営者になる夢が叶いそうな、登用の道筋が見える会社に転職しよう」と思うのです。これは重要な点です。

 それに、成長市場が新興国にシフトしているなら、トップマネジメントにもその市場を深く理解した人材が適任だと思いませんか。企業があるのは事業のためであって、国籍のためではありません。「私たちは日本企業だ」と言ってこだわりすぎるのは、ある意味で自己破壊的です。企業の本質は、何かを提供して顧客を幸せにすることです。そうでありさえすれば、どの国の人が経営者であろうが、本来は関係ないはずです。