コーポレート・アントレプレナーシップと“Eの時代”

 大企業は短期的には、何らかのスリム化が必要になることもある。しかし、その先を見据え、様々な施策を継続的に講じながら、各企業が直面する不確実性の度合いに応じ、起業家的人材が活躍できる、起業家的な組織に適切に変化していけばよい。企業のマインドセットを、常に“顧客とともに、そして顧客のために”を意識しながら、以下のように大きく変化させた上で、これまでの歴史という時間に裏打ちされた、財務的な強み、ステークホルダーとの相互信頼関係、顧客基盤や販路、知名度やブランド、を活かしていく道を選べる。

  • ・現状の維持 → 常に変化・変貌していくことが当然
  • ・製品・サービスの改善 → 何か新しい“やり方”を考える
  • ・利益・リターンの最大化 → 顧客の時間価値の最大化
  • ・効率・効果の追求 → 創造性とイノベーションの発露
  • ・プランニングと実績管理 → 多くの実験と振り返り
  • ・リスクを減らす → リスクをコントロールする
  • ・中央からのコントロール → 個人のラーニングの集積
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 加えて、とりわけ大切となるのが、“Eの時代”を体現できる組織に変わることである。ここでの“E”とは、エンカレッジメント(Encouragement)、アントレプレナー (Entrepreneurs)、エンゲージメント(Engagement)を表している。人材が起業家的に活躍できるための構造を整え、人材に情報、経営資源、権限を適切に提供し、人材が自発的な意思決定により、ビジネスの機会を具現化できるように勇気づける。結果として、起業家的な人材は段階的な成功体験を積み重ねると同時に、致命的でない失敗からの教訓を蓄積することにより、組織に対して強い愛情を抱くようになり、組織のための高い創造的生産性を発揮するようになる。

 人間は、自発的に何かをアウトプットし、フィードバックを得ることによって、高い幸福感を感じることができる。筆者の研究室が、東京のサラリーマン400人を対象に実施した調査結果では、以下のような項目が、回答者の高い幸福感および組織の将来の業績に貢献しようとする強い意欲と、有意な相関を示した。

  • ・自分の良心に反しない仕事ができる
  • ・違った仕事にチャレンジできる
  • ・自分の考え・能力を試す機会がある
  • ・自分で判断ができる自由
  • ・仕事からの高い達成感
  • ・良い仕事をした時における賞賛
  • ・人々の助けになる機会があること
  • ・昇進の機会があること 
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 また、前出の起業意識調査2014年度版の結果から強く推測されることは、(特に大卒以上の学歴を持つ男性の)回答者は、自ら独立開業する意志こそ低いものの、既存企業において、それなりに安定した生活と満足できる収入を確保できるという条件が揃えば、その組織内で、自発的にアイディアや事業を実現していこうという意志があるということだった。いいとこ取りではないか、とも考えられる。多くの日本企業は、このようなモチベーションを活かしきれる体制を整えた“起業家的組織”ではないであろう。しかし、このような人材の存在は、将来の発展に向けた突破口となりえる。

 以上を踏まえた上で、第2回以降では、(1)起業家的な人とは?そのような人に埋め込まれているマインドセットとは?(2)クリエイティブになるプロセスとは?新しいビジネスの機会を見つける源泉は?(3)起業家的な人材やリーダーを活かせる組織とは?、という問いを考えていくことにしよう。


(注1)“Start-up costs for MBA graduates pay off”, Feature of The Week, January 18, 2015, Financial Times.

(注2)Amway Global Entrepreneurship Report 2015, 米国アムウェイ