「リバース」イノベーションなどない

 そこでノバルティスはどうすれば結核を自己診断できるか、どの医者にかかれば正しく診断を受けられるか、消費者の啓発活動を始めました。放っておいたら、「医者」は決して結核を診断できないからです。包括的な患者啓発の仕組みを作って、インドで彼らは大成功しました。

 2年前、ノバルティスはそのプログラムを地域本社があるシンガポールに移植し、今ではベトナムとケニアで同じアプローチを実験しています。彼らは、8年もかけて作り上げたインドのモデルを、そのまま別の国にコピーペーストしても機能しないと理解しています。だからそれぞれの市場でどうカスタマイズすべきか、インド同様に試行錯誤の実験アプローチをとっています。将来は、このプログラムをリージョン単位に広げるビジョンです。

――そのような取り組みに、成功のカギはありますか。

 先進国企業でも、新興国を活用して新たに拓ける市場機会を認識している企業はあります。しかし、果実を手にするには、考え方を変えなければなりません。そしてそのための方法は、結局のところ「顧客と対話する」しかないのです。

 GEはインドでとにかく医者と患者の話を聞き、その悩みを理解して、どう解決策をデザインするかを学びました。たとえば、彼らのECGや超音波検査器は、1万ドルする機器より構造に優れ、はるかに丈夫にできています。そして停電の多さに対応しバッテリーでも動き、3時間充電すれば、心電図が500回撮れます。消費者が何を求めるかをどこまでも考え抜き、絞り込んだ必要な要素は妥協せずに作り込む。だからこそあれほどの成功を収めたのです。

――これはいわゆる「リバース・イノベーション」ですね。日本でも有名なキーワードです。

 そう、「リバース・イノベーション」はビジャイ・ゴビンダラジャンとクリス・トリンブルが命名した造語です。でも私は、「リバース・イノベーション」とは、とても傲慢な言葉だと思います。新興国を舞台とするこうした革新に、何も「リバース」なことはありませんよ。これこそイノベーションの本流そのものです。

アミタバ・チャットパディヤイ
Amitava Chattopadhyay
INSEAD教授(マーケティング)

GlaxoSmithKline Chaired Professor of Corporate Innovation
ブ ランドとイノベーションの専門家。『ジャーナル・オブ・マーケティング』ほか一流誌に30年で60以上の論文を寄稿、『ジャーナル・オブ・コンシューマー リサーチ』の年間最優秀論文受賞。3つの国際論文誌でエディターを務める。コンシューマーリサーチ学会のボードメンバーを務め、現在アジアンコンシューマーリサー チ協会(シンガポール政府)のフェロー。近著The New Emerging Market Multinationals: Four Strategies for Disrupting Markets and Building Brandsは、ストラテジープラスビジネス誌の 「2012年ベストビジネス書」に選ばれた。MBAとPhDに加え、企業幹部向けコースを世界五大陸で教える。企業アドバイザーも務め、多国籍企業にコン サルティングを行う。フロリダ大学PhD、Indian Institute of Management(アーメダバード)PGDM。