新興国のインサイトを、先進国でも生かす

――先進国企業も、最近は変わってきていませんか。 新興国市場や新興国企業の情報が増えて、実態を理解し変革に取り組む企業が増えているように思います。

 数は少ないですが、確かに変化しようとしています。GEなどは明らかにそのパイオニアです。GEはR&Dセンターを中国とインドに置き、そこで低コストの医療機器を生み出しています。重要なのは、それら新興国で生まれた新商品が、新興国だけでなく米国のような先進国でも価値あるものとなっていることです。

 例を挙げてみましょう。GEは中国で超音波検査器を、インドで医療用ECG (Electrocardiogram:心電計)を開発しました。どちらの機器も、従来に比べればコストも価格も格段に安くなっています。彼らが作ったローコストECGは売価500ドルで、これは従来品より95%の価格ダウンです。しかも主要機能は1万ドルの従来品と遜色ありません。この機械で心電図を1回とるのにかかる費用はたった25セント、インドでいえばボトルウォーター1本と同じくらいの安さです。

 米国でも、たとえばアイオワやカンザスのような地方では、患者が少ないので開業医は1万ドルするECGは買えません。でも500ドルの機械なら買えるし、そうすれば患者は100キロ離れた大病院まで行かずにすみ、医者にはECG診断の新しい収入が入ります。500ドルなら、ECGを必要とする患者が月に5人でもペイするのです。GEは、購買力が低い顧客にとっての価値をインドで突き詰めたことで、母国でも全く新しい市場を生み出したのです。

――GE以外にも例はありますか

 ノバルティスがインドで取り組んだ、Arogya Parivarというプロジェクトもよい例です。これは、一日の収入が2-5ドルほどの貧困層にアクセスし、彼らに医療ソリューションを販売するものです。そこで取り組まれた大きな課題の一つが、結核です。インドは毎年30万人が感染する、世界最大の結核感染国だからです。ノバルティスは大きな仕組みを構想し立ち上げました。

 その際に直面した障害は、まず何よりも、結核になっても患者がそれを認識できないことにありました。 もしひどいせきがずっと続いたら、私たちは医者にかかるでしょう。でもインドの貧困層は、そのように考えません。それに何より、「医者」という概念がインドの貧しい田舎では私たちと全く違います。インドには、医療教育を全く受けていないのに診察をする「医者」が今日でも少なくないのです。

 そうした「医者」は、薬局の元従業員だったりします。薬局では、医者の処方箋をもらった患者がどういう薬を受け取るか、何度も観察できます。4-5年もいれば、何千もの処方箋をさばき、どの病気にどの薬を渡すか、大体わかるようになります。そこで聴音器と血圧計を買い、血圧の測り方くらいを自習します。あとは田舎の村に行けば、医学など知らなくても「医者」になれてしまうのです。だから結核が診断される時には、もう手遅れとなっている場合が多いのです。