広く深く、「顧客の目」を持つ

――日本企業は、製造業で生産拠点を海外に立ち上げ、ノウハウを移転することに成功してきました。しかし今や生産だけでなくマーケティングやサプライチェーンにも関わる重要な意思決定を、現地で素早く行う必要があります。どうすればそれを、本社としてうまくガイドできるか。
 過去の経験には答えがありません。勢い、欧米のように文化的に言うことを聞かせにくい海外拠点には口を出さず追認し、指図しやすい拠点では必要以上に日本人がコントロールする。日本企業のグローバル経営では、こうした実態がかなりあると感じます。
 そしてより大きくは、「どのような形が日本的経営の未来形なのか」という問題意識があります。日本企業も変わらなければならない認識は強いですが、日本的経営2.0や3.0とは何なのか、答えが見えない中で苦闘している印象です。

 一つ言えるのは、グローバルで戦うなら、何よりも各ローカルの顧客を本当の意味で理解しなければならないということです。日本に限らず、多国籍企業は多かれ少なかれ顧客を真に理解できていません。

 多くの企業は「グローバル」モデルを追求してきたのです。彼らは新興国でよく、「ミドルクラス」と呼ばれる、実際は現地の目で見ればスーパーリッチ層が住む、大都市の中心で展開します。たとえばインドでは、年収2万ドル以上の層が10%しかいなくても、人口が12億人と大きいので、それだけで巨大市場になります。しかし多国籍企業が目を向けない、本来狙うべき消費者層はそうした都市部には住んでいません。

 そうした消費者は、休暇に海外旅行に行くような層とは、マインドも全く違います。2級や3級の都市は、見て回るだけでも本当に多様です。私はインド人なので、インドの地方都市に行けば、空気感も含めた違いがわかります。インドや中国に本当にリーチしたければ、有名都市を超えてどこにでも行き、顧客が何を求めているかを理解しなければなりません。消費者の感覚そのものが全く違うからです。

――「顧客を理解する」ということについて、もう少し詳しく教えてください。

 たとえば、今多くのインド人が初めての冷蔵庫を買っています。仮にあなたが家電メーカーで、これからインドで冷蔵庫を売るとしたら、まずシンガポールやアジアで売れ筋の商品を展開するかもしれません。でも、それでは売れません。

 何よりまず、消費者には冷蔵庫を買う予算が少ししかありません。また、インドでは水道の水が安全でないので、製氷など水道水を使う機能が使えません。私の実家のように汲んだ水をろ過器に通すか、私のインドの家のように、浄水器と直結した専用蛇口をつける必要があります。

 そうした設備を置く場所やパイプの導線まで全て含めて、冷蔵庫のデザインや配置を考えないと、インドでは価値が無いのです。狙うのが富裕層であれボトム層であれ、こうした特有の事情を深く理解しなければなりません。ムンバイの富裕層が大型冷蔵庫を買う時に、そういうことを無視した製氷機能などあっても目もくれません。

 あるいは、ゼロベースで考えれば、発電機に簡単に接続できる小型冷蔵庫を農村で売ってもよいかもしれません。インドは電力事情が悪いですが、屋上に取り付けてコードをつなげばすぐ使えるソーラーパネルなら、すでに備えた農村があります。

 ほとんどの多国籍企業は、消費者が新興国市場で本当に何を求めているかを考えていません。EMNCはそれを徹底して考えるからこそ、市場でドミナントな存在になりつつあるのです。