戦略パレットを活用する

 戦略パレットは次の3つの目的で活用することができる。特定の事業要素に見合った戦略スタイルを選び、正しく実行するため。複数の事業要素、あるいは長期的な時間軸で、複数の戦略を適切に管理するため。そして、できあがった戦略のコラージュにリーダーが命を吹き込むためである。

 戦略パレットは、特定の事業要素にふさわしい戦略スタイルを説明・選択するための新たな言葉をリーダーに提供するものだ。また、各スタイルにおける戦略の策定と実行を結びつける論理的な糸の役割も果たす。

 大半の企業において、戦略の策定と実行は、組織的にもタイミング的にも不自然に切り離されている。各スタイルで求められる戦略の組み立て方は大きく異なり、実行の方法もそれぞれに特有である。情報管理やイノベーション、組織、リーダーシップ、企業文化の面で、要求される事柄が違ってくるのだ。

 戦略パレットは企業にとって、戦略的意図の指針になるだけでなく、実行体制を整えるうえでも役に立つ。以下の表に、戦略パレットの主な要素を整理し、それぞれのスタイルを採用している企業の具体例を示した。

 戦略パレットによって、事業をより精緻に把握できるようになる。特定の戦略を必要とする複数の事業要素に分解できるからだ。そして異なる事業部門、地域、ライフサイクルの段階に応じて、複数の戦略を効果的に組み合わることも可能になる。

 今日の大企業は、非常に幅広く変化の激しい環境で事業を展開している。ほとんどすべての大企業が、戦略的特徴の異なる複数の業種や地域に手を広げており、それゆえ複数の戦略を同時並行で進めることを迫られているのだ。進歩の速いテクノロジー部門に適したアプローチが、より成熟した部門のアプローチにも適しているはずはない。また同じ事業であっても、急成長中の国と、より成熟した国とではアプローチが大きく異なる。

 事業にもビジネスモデルにも必ずライフサイクルがあり、各段階で異なるアプローチが必要だ。事業の創出は通常、戦略パレット上の先見型か形成型の領域で起こり、その後に適応型を経て伝統型へとシフトしていく。さらなるイノベーションによって破壊的変化を受ければ、そこからまた新しいサイクルが始まる(もちろん、実際にはさまざまな道筋がありうるが)。

 たとえばアップルは、先見型の戦略によってiPhoneを生み出した。次に形成型戦略を採用して、アプリ開発者、通信会社、コンテンツプロバイダーと協働するエコシステムを発展させた。そしてこの先、より包括的な製品・サービスを携えた競合他社がそのポジションを狙ってくれば、アップルの戦略は適応型、あるいは伝統型の方向に変わるかもしれない。

 戦略パレットの活用時には、リーダーがみずから環境と戦略の組み合わせを設定し調整するという重要な役割を果たす。環境を見極め、どの戦略をどこに適用するかを決め、それを実行するための適切な人員を配置するのがリーダーの仕事だ。

 それだけでなく、できあがった統合的な戦略をストーリーにして、内外に広め説得する際にもリーダーの働きが重要となる。複数のアプローチを組み合わせた戦略のコラージュに命を与え続け、動的で新鮮な状態に保つために、リーダーには次のことが求められる。適切な問いを立てること。支配的論理によって視野が曇るのを防ぐために、前提を疑うこと。そして必須となる変革の取り組みを、全力で支援することだ。

※BCGの以下のサイトには、本書の関連リソースがある。
www.bcgperspectives.com/yourstrategyneedsastrategy

※本記事は、マーティン・リーブズ、クヌート・ハーネス、ジャンメジャヤ・シンハの共著Your Strategy Needs a Strategy: How to Choose and Execute the Right Approach(HBR Press, 2015)からの抜粋である。

HBR.ORG原文:Navigating the Dozens of Different Strategy Options June 24, 2015

※前編はこちら

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マーティン・リーブス(Martin Reeves)
ボストン コンサルティング グループのシニアパートナー(ニューヨークオフィス)。同社ブルース・ヘンダーソン研究所のディレクター。新刊Your Strategy Needs a Strategy(HBR Press, 2015)の筆頭著者。

クヌート・ハーネス(Knut Haanaes)
ボストン コンサルティング グループのパートナー(ジュネーブオフィス)。BCGストラテジー・プラクティスのグローバルリーダー。

ジャンメジャヤ・シンハ(Janmejaya Sinha)
ボストン コンサルティング グループのアジア・パシフィック地区チェアマン。ムンバイオフィスのシニアパートナー。