●先見型(Visionary)

 先見型の戦略スタイルを取るリーダーは、環境を主に自分たちの力で形成、あるいは再形成できると考える。先見的企業の勝利のカギは、誰よりも早く革新的な新製品やビジネスモデルを打ち出すことである。先見的なリーダーは、他者の目には不透明に映る環境において、新たな市場セグメントの創出や既存市場の破壊のチャンスを明確に見極め、その実現に向けて行動する。

 このアプローチは、先見的企業が独力で、市場において新しくて魅力的な何かを実現できる場合に有効である。そうした企業は、他社に先駆けて新たなテクノロジーを投入したり、顧客の不満を招いている大きな原因や潜在的ニーズを最初に特定して対処したりできる。あるいは業界の古びたビジネスモデルを変革したり、来たる大きな潮流(メガトレンド)を誰よりも先に察知して行動を起こしたりもできる。

 先見型の戦略を採用する企業にも、特徴的な思考プロセスがある。まず先見的なリーダーが、実現性のある有意義な可能性を思い描く。そして誰よりも早くそれを実現すべく、ひたすら努力する。最後に、その構想のポテンシャルをすべて引き出すまで、実行と規模拡大に力を尽くす。

 伝統型戦略における分析・計画や、適応型戦略における反復的実験とは異なり、先見型アプローチは想像と具現化を要とし、本質的にクリエイティブである。

 先見型の戦略スタイルを採用する企業の良い例が、医薬品開発のアウトソーシングサービスを担うCRO(医薬品開発業務受託機関)という分野を開拓した、クインタイルズ・トランスナショナルである。

 医薬品開発業界の事業構造が安定しているように見えていた頃、同社の創業者兼会長のデニス・ギリングスは、まったく新しいビジネスモデルによって、医薬品開発を向上できる明確なチャンスがあると見抜いた。そして1982年、彼にとって必然と思えたこのビジョンを実現すべく、いち早く創業。クインタイルズは素早く大胆に行動することでリードを守り、潜在的な競合相手のはるか先を進むことに成功した。

 現在、同社はみずからつくり出したCRO業界の最大のプレイヤーであり、市販されている売上高上位50製品の開発や商業化に参画してきた。

●形成型(Shaping)

 環境がどうなるか予測できずとも、変えることならできる場合がある。業界の発展初期には、競争のルールが規定/更新される前に、業界全体の構造を形成/再編する主導権を握る大きなチャンスがある。

 このようなチャンスを活かすためには、他社との協働が求められる。1社が単独で業界を形成することは不可能だからだ。他社とリスクを共有し、能力を補い合い、ライバルが動き出す前に新規市場を確立する必要がある。形成型の企業が身を置く業界は、発展の初期段階にある。そして多数の協働者に影響力を行使しなければならないが、完全なコントロールは及ばない。そのため、環境の予測可能性は非常に低い。

 形成型のアプローチを取る企業は、他の協働者を巻き込んで適切なタイミングで未来への共有ビジョンをつくる。そして、協働を取りまとめるためのプラットフォームを確立する。柔軟性と多様性を維持しながら規模拡大を図ることで、プラットフォームおよび協業者のエコシステムを発展させていくのである。

 形成型戦略は、個々の企業よりもエコシステムを重視し、競争だけでなく協業も主眼とする点で、伝統型、適応型、先見型とは大きく異なる。

 ノボノルディスクは1990年代以降、中国の糖尿病治療市場で勝つために形成型戦略を採用してきた。当時、中国では糖尿病の問題が顕在化し始めたばかりだったので、市場の行く末を正確には予測できなかった。しかし、同社は患者、規制当局、医師らと協業し、市場のルールづくりに影響力を発揮することに成功した。いまや同社は、中国のインスリン市場で60%以上のシェアを占めており、糖尿病分野の圧倒的な市場リーダーである。

●再生型(Renewal)

 再生型の戦略スタイルは、過酷な環境で活動する企業が生命力と競争力を取り戻すことを目的とする。このような厳しい状況は、戦略と環境とのミスマッチが長く続いたり、社内外で極めて衝撃的な出来事が発生したりした場合に起こりうる。

 外的環境が非常に厳しく、事業運営を現行の方法では維持できない場合は、思い切って針路を変えることが必要だ。これは生き残るための、そしてもう一度返り咲く可能性をつなぐための唯一の道である。

 企業はまず、環境の悪化をできるだけ早く認識し、反応しなければならない。その後、生命力を回復するために決然と行動を起こす必要がある。事業ポートフォリオの見直し、コスト削減、資本の保全などによって倹約を進める一方で、再起を図るための財源となるリソースを確保しておく。そして最終的に、ふたたび成長と繁栄を実現するために、他の4つの戦略スタイルから1つを選び方向転換することになる。

 再生型は、3つの点で他のスタイルと大きく異なる。通常は防衛的な姿勢で始まること。他と大きく異なる2つの段階を経ること。そして、他の戦略スタイルへと転換する前段に位置づけられることだ。環境に適応できない企業が増えているため、再生型の戦略は次第に一般的となっている。

 金融危機へのアメリカン・エキスプレスの対応は、再生型アプローチのよい例だ。信用危機が発生した2008年、同社は債務不履行率の上昇、消費者需要の減退、資本へのアクセスの困難化というトリプルパンチに見舞われた。これを生き抜くために、同社は約10%の人員削減、非コア事業の整理、補助的な投資の削減を実行した。2009年までには20億ドル近くのコスト削減を実現。そして新たなパートナーとの提携、ロイヤルティ・プログラムへの投資、預金拡大事業への参入、デジタル技術の導入を通して、成長とイノベーションに向けて舵を切った。2014年時点で、同社の株価は不況時の最安値から800%上昇している。