「非市場における戦略」で
先行きが読めない未来に挑む

入山 リーダーは不確実な未来に向かって、常に何らかの判断をしていかなければなりません。メリーランド大学のヒュー・コートニー教授は、未来を不確実性のレベルによって、「確実に見通せる未来」「他の可能性もある未来」「可能性の範囲が見えている未来」「先行きがまったく読めない未来」の4段階に分けています(*1)

「先行きがまったく読めない未来」が増えていくこれからの経営者に求められるのは、こうした不確実性を受動的に受け止めて何らかの答えを出すのではなく、むしろ前向きにコミットし、混迷した状況を自ら打開するようなリーダーシップです。そういうリーダーシップが発揮される能力は、AIによって代替されることはないでしょう。

日置 おっしゃる通りだと思います。ルールや世界観を自らつくり、自分たちが生き残っていける環境につくり変えるリーダーシップですね。

 グローバル企業では、そうしたリーダーシップが重視され、現に発揮されています。CEOが下したある判断は、その時は一般社員にはよくわからないけれども、後から振り返ると、それは正しかったという事象がよくあるらしい。彼らは「先行きがまったく読めない未来」に向けて、正しい判断を行っているわけです。

入山 なぜそれができるのでしょうか。

日置 CEO自身が優秀なのはもちろんですが、ビジネスの方向性を定めるような機能や、判断が正しくなるような土壌づくりをする機能を持っています。そして、優秀な人材をそれに充てていることも大きいでしょうね。例えば、方向性を決める前提としてマクロ経済やメガトレンドなど未来のビジネス環境を常日頃から読み解いたり、あるいは、描いたとおりにビジネスを組み立てたりできるよう、政府や力のあるNGO/NPOをターゲットにロビー活動やパートナーシップの構築に挑んだりしています。

入山 ビジネス環境づくりにおいてロビー活動は非常に重要です。理論化されてはいませんが、2014年の戦略マネジンメント学会の世界大会でも盛んに議論されていました。世界標準の経営学では「非市場における戦略」と呼ばれるもので、ロビー活動、国際認証システムの構築、賄賂の贈り方までもそれに含まれます。

日置 賄賂まで研究対象になるのですね。

入山 実はつい最近まで、インド企業における賄賂の研究をしていました(*2)。特に新興国では賄賂が必要悪として機能する場面が数多くあるんです。日本企業も現地はその効用を理解していますが、本社がコンプライアンスを強化しているから表立って使えない。そうして現場が板挟みになって苦しんでいるところに、韓国企業や中国企業が国や企業トップ層との関係を作ってどんどん業績を上げているんです。

 米ジョージ・ワシントン大学のジェニファー・スペンサーの研究によれば、賄賂の規制が緩い国の企業ほど海外でも賄賂をよく使うそうです。

日置 賄賂は極端な例ですが、国ごと、企業ごとにどのような非市場の戦略を展開するかは、今のところ、まったく異なるようですね。

入山 ロビー活動のような非市場における戦略の面では、日本企業は明らかに遅れを取っています。日本の自動車メーカーでも、アメリカ政府へのロビー活動強化を意識してか、ワシントンD.C.に社員を送り込むような動きもありますが、まだ不十分でしょう。
 

*1 邦訳「不確実性時代の戦略思考」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2009年7月号
*2 競争戦略論の枠組みで賄賂の使い方を統計的に分析した論文が戦略マネジメント学会の学術誌(Strategic Management Journal)に掲載されました。