テレマティクスの技術を
医療に応用したらどうなるか

 一方の「バーテンダー」戦略は、はるかに大きな変革を意味する。こちらは新規参入のプレーヤーたち(往々にしてヘルスケア業界以外の、小売り、ソフトウェア、電子機器、アパレルなどの企業)が、個々人に向けて詳細な健康情報やアドバイスを提供することで、消費者に力を与え優れた体験をつくり出す。このアプローチは非常に破壊的である。従来の医者と患者の関係を飛び越えて、ケアをどこで、どのように、誰から受けるかについてはるかに充実した選択肢と管理権限を人々に与えるからだ。医療グループのスクリプス・ヘルスに勤める心臓医エリック・トポルによれば、「人間のデジタル化によって、『医者は何でも知っている』という言い回しがジョークになる」という。

 たとえば、不整脈を抱える女性を想定してみよう。金鉱掘りモデルでは、彼女は心臓病予防プログラムに登録される。そこで中心的役割を担うのは、心臓の動きを絶えず追跡するスマートフォン用アプリだ。そして判断事項の大部分は診療チームによって一元管理される。

 対照的にバーテンダーモデルでは、心電図と生活習慣を記録するスマートフォン用アプリを当該患者に販売し、彼女自身にデータを管理してもらうことになる。直感的に扱えるインターフェイスのアプリで本人が日常活動を記録し、データの送信先を担当医にすべきか、ベンダー企業の専門家にすべきか、それとも自分のコンピュータに送信してモニタリングと解析を続けるかを自主的に決める。アプリはさらに、運動、食事、睡眠、薬の服用などの生活習慣も追跡記録する。

 データが蓄積されるにつれ、何らかのパターンが現れ始める。たとえば特定の薬の服用と、動悸の重症度や頻度との相関関係などだ。このアプリによって、服用スケジュールがテキストメッセージで通知されたり、緊急時に指定の連絡先に自動で通報されたりと、さまざま形で治療介入を受けられる。すべてのオプションは収益源を意味し、これらを既存企業と新規参入者が虎視眈々と狙っている。

 車載テレマティクスの「オンスター」のような技術を、ヘルスケアに応用したらどうなるか想像してみるのもいいだろう。インプラント機器によるサブスクリプション型のサービスで、心臓発作の兆候を感知し、患者に措置を取るよう警告したり、必要であれば119番で救急車を手配したりもできる。サービスを通して患者本人が決定権を保持し、データによって絶えず力を与えられる。

 上記のようなシナリオは、すでに現実のものとなっている。たとえばモバイルヘルス企業のアライブコア(AliveCor)は、スマートフォン経由で心電図を追跡記録する機器を販売し、データを第三者のベンダー企業や医師と共有して解析するオプションを消費者に提供している。医療系テクノロジー企業のウェルドック(WellDoc)が開発した〈ブルースター〉(BlueStar)は、モバイルで糖尿病を自己管理するプログラムを通して、血糖値のモニタリングと患者へのコーチングを提供している。遠隔モニタリング技術を提供するセントリアン(Sentrian)は、ウェアラブル機器のバイオセンサーから得るデータをIBMの人工知能エンジン〈ワトソン〉に送り、入院を回避できる機会の特定を行っている。