保険業界の巨人アクサは何におびえているのか

 私が知るなかで、先を見通すことに最も熱心で、惜しみなく投資をしている企業の1つが、フランスのアクサグループである。資産運用総額は185兆円、全世界に1億300万人の顧客を擁し、アメリカのバークシャ・ハサウェイやドイツのアリアンツグループと並ぶ保険業界の巨人だ。

 フランス北西部に本拠を置く小さな保険会社にすぎなかったアクサがここまで成長したのは、前会長のクロード・ベベアール氏の功績によるところが大きい。徹底した拡大成長路線を取り、敵対的買収も含む積極的なM&Aを国内外で重ねることで世界最大級の保険グループを築いた。

 グループ名を現在のアクサに変えたのは1985年。「AXA」はアルファベットの最初にくる「A」で始まること、短いこと、そしてどこの国に行っても読み方が変わらないことを条件に名付けられたという。

 欧州、北米、アジアと次々に海外進出を遂げて世界の保険市場で存在感を示してきたアクサだが、それを支えてきたのは、不確実な遠い将来を見通し、その将来に向けて行動を起こす姿勢の一貫性である。

 たとえば、2007年には世界を見渡し、未だ把握できていないものも含めたあらゆるリスクから人々を守るために、「AXAリサーチファンド」を創設した。このファンドは地球環境、人々の生活、社会経済といった分野で、現在深刻化しているリスク、あるいは今後深刻化していくであろうリスクに対して、その解明と軽減に資する科学的研究に資金を投じている。

 どうすれば、未だ把握されていないリスクに備えることができるのか――アクサはこの難題に、保険や金融に関連しそうなあらゆるテーマにアンテナを張り巡らせることで答えを出そうとしている。

 また、このファンドをフィランソロピーの一環と位置づけている。これが単なる慈善事業でないことは、支援対象となるテーマがいずれも保険や金融のリスクとの関連性が高いことから明らかだろう。2018年までに20億ユーロ(2670億円)を拠出することを表明していて、日本でも、東大の学術研究講座「健康と人間の安全保障」などを支援している。

 AI(人工知能)、ロボティクス、デジタルバイオロジーなどの最先端テクノロジーに関しては、2012年にシリコンバレーに設立した「AXA Lab」が目を光らせる。情報収集や人的ネットワークの構築に取り組み、優れた技術やアイデアを持つスタートアップ企業があれば、ベンチャーキャピタルファンド「AXA Strategic Ventures」を通じて積極的に投資する。

 一連の施策からは、2000年にベベアール氏からバトンを引き継いだアンリ・ド・カストリ現会長も、保険業と自社の未来に非常な危機感を持っていることがうかがえる。現時点の商品や販売方法が通用しなくなることはもちろん、保険事業そのものが現在とは大きくかたちを変える可能性をも常に強く意識しているのである。

 ちなみにアクサのトップ交代は、この30年間で1回だ。オーナー企業を除いて、日本の大企業ではまず考えられない在任期間の長さである。これもまた、近視眼的な経営に陥らず、メガトレンドを押さえたうえで、10年後20年後に勝ち残るシナリオを描こうとする姿勢につながっていると考えられる。