同じ新興国でも、インドと中国の企業経営は全く違う

――同じ新興国企業でも、出自国によって違いはあるでしょうか。各国の特徴があれば、教えてください。

 インドと中国は、大きく違います。中国は、10%近い経済成長を30年も続けて環境が流動的であり、二つの力が働きます。一つは、圧倒的な成長スピードです。市場が拡大し続けるため、機会が無尽蔵にあるのです。もう一つは、政府が持つ市場への影響です。時によって、政策は劇的に変化します。

 そのため誰もが、「今度この市場機会が開放されたので、急いで参入して儲けよう。政府が認めたのだし、10%成長するのは間違いないのだから」と考えます。誰もが先を急ぎ、そこに戦略などありません。どこに金脈が眠っているかわからないので、ものすごい熱意で皆が機会に殺到するのです。

――インドはどうなのでしょうか。

 インド企業ははるかに組織立っており戦略志向です。中国との違いには二つ理由があります。第一に、インドは中国のような水準の高度成長を経験したことがありません。そして第二に、中国には経営スキルの蓄積がありません。

 中国では、擬似的な自由市場を体験した、最初の世代が今ようやく生まれているところです。一方でインドでは、TataやGodrejなど1800年代からビジネスを続けてきた企業グループがあり、ずっと自由市場で運営されてきました。1947-91年の社会主義志向時代は制約がありましたが、それでも現在の中国よりはるかに自由な市場だったのです。

 インドは西洋のアイデアにもずっとオープンです。インドで最初のビジネススクールは1962年に設立されました。一つがHarvardと連携したIIM Ahmedabad、もう一つがSloanと連携した IIM Calcuttaです。

 一方で中国といえば、1992年に国際協力プロジェクトで北京の中国人民大学へ行った時を思い出します。CIDAの目的は、中国人民大学経済学部の教授陣に、ビジネスとは何か、マーケティングをどう教えるか、といった教授法を教えることでした。中国がビジネススクールを立ち上げられるように、「トレーナーをトレーニングする」というプログラムです。つまりインドと中国には、マーケティングとは何かを理解することについて、30年の差があるのです。

――インド企業には、どのような特徴があるのですか。

 インド企業には、いくつか特徴となる得意領域があります。たとえば、インド企業は欧米企業よりM&Aがはるかに上手で、経験も豊富です。

 TataはTetleyやJaguar/ Land Roverを買収してから、驚くほどうまくマネジメントしています。買収が実現した時、誰もが失敗すると予想しました。しかし今やJaguar/Land RoverはTata Motorsで最も高収益性の部門ですし、Tata TeaはTetley買収の結果、 Tata Global Beveragesに変身しました。Tataをはじめとするインド企業には、買収を価値創造につなげる能力があります。海外買収でひどい目にあったインド企業のニュースを、聞かないでしょう。

――そうですね。インドの財閥企業の多くがもともと連邦経営的で、ビジョンと価値観の下に緩やかに連携していると聞きます。企業グループの構造が、欧米や日本企業とは大きく違うようです。 それは、インド流の経営手法に関係があるのでしょうか。

 アジアを見れば、日本の財閥であれ、韓国のチェボルであれ、タイのCPグループであれ、コングロマリットが普遍的です。インドの財閥もあらゆる事業に手を出しています。Tata Groupだけで、独立企業が85社もありますし。オーナーシップ構造や経営手法は国によって違うかもしれませんが、コングロマリットの形自体はアジア共通です。

 こうした構造には、潜在的なアドバンテージがあるからです。たとえばコングロマリットの支援がなければ、Tata TeaにはTetleyの買収は出来なかったでしょう。必要なキャッシュの一部として、コングロマリットはTata Teaに1億ポンドを提供しています。