行動は、ストーリーの中で示されただけでも伝染することがある。企業の創業者や幹部はよく、自分自身の逸話や過去の行動の例を社内で話すものだ。そうした例はどこにでもある。マッキンゼーの従業員なら、マネージング・ディレクターを長く務めたマービン・バウアーの誠実さに関する話はよく知っているはずだ。スターバックスなら、従業員の幸福を重んじるCEOハワード・シュルツの取り組みがよく話題になる。

 組織の下層から生まれるストーリーもある。たとえばリッツ・カールトン・ホテルでは、顧客や他の従業員のために役割を超えて献身したドアマン、清掃員、設備保守スタッフなどの逸話が広く共有されている。

 こうしたストーリーは、組織の価値観を貫いた仲間に関する好ましい例だ。他方、組織の価値観を損ねた人の話もある。ボストン・カレッジ のショーン・マーティンは最近、こんなフィールド実験を行った(英語論文)。ある大手IT企業で600人を超える新入社員に、新人研修の一環として、会社のメンバーに関する数パターンのストーリーを聞かせた。職位が高い者についての話と、低い者についての話。そして、主人公が会社の価値観を守った話と、損ねた話である。

 すると、こんな結果が明らかになった。「組織の価値観を守った者の話」は、主人公の職位が低いパターンのほうが、その後に新人たちの正しい行動を促し、逸脱行為を減らす効果があった。一方、「価値観から逸脱した者の話」については、主人公の職位が高いほうが、正しい行動を促す効果は低かった。つまり、私たちは「職位の低い人が優れた行動をした話」に特に感銘を受け、「高い地位の人が不正をした話」には強く幻滅するようである。

 フィクションの本を読むことも、人の行動に顕著な影響を及ぼすことがある。ダートマス大学のジェフ・カウフマンとオハイオ州立大学のリサ・リビーによる研究では、フィクションの登場人物の世界に没頭する人は、態度や思考がその架空の人物に似ていくということが判明した(英語論文 )。「体験の取り込み(experience-taking)」、つまり登場人物の感情、信念、内的反応を感じ取ることは、読者の生活に実質的な変化を引き起こすことがあるのだ。たとえばある実験では、参政権を獲得するために尽力した登場人物に強く共感した被験者は、自分でも投票に行く頻度が高くなった。

 物語を語ること、それに耳を傾けることは、知恵と文化を引き継いでいく方法として太古の昔から続いている。これまで述べた諸研究が示すように、組織は価値観や規範、難題への解決策にまつわる知識を――それが単純なものであれ複雑であれ――ストーリーを通じてより効果的に伝えられる。たいていの組織には、人々の行動を良い方向に変えるような話が多く埋もれているはずだ。

HBR.ORG原文:The Unexpected Influence of Stories Told at Work September 15, 2015

■こちらの記事もおすすめします
不用品の価格を2700%上昇させた、ストーリーの力
心を揺さぶり、信頼を感じさせる、ストーリーの語り方
誤った情報を正すための3つのコミュニケーション術

 

フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクール教授。経営管理論を担当。著書に『失敗は「そこ」からはじまる』(ダイヤモンド社)がある。