3.組織と戦略は整合しているか?

 1990年、資産管理会社SEIインベストメンツ(当時の時価総額1億9500万ドル)の創設者兼CEOアルフレッド・ウェストは、スキーで事故に遭い3ヵ月間も病院のベッドで過ごすことになった。できることといえば、天井を見つめて、会社の現在と将来について考えにふけることぐらいしかない。そんな状況で彼は気づいた。自社はイノベーションが戦略のカギだと謳っていながら、根本的な組織構造はそれにまったく向いていない。仕事に復帰した彼は、官僚主義を完全に排除し、チーム制を導入し、多くの社内規定を廃止した。これを機に同社の急成長が始まり、いまや時価総額は約80億ドルに上る。

 長時間の思考を余儀なくされた結果として、ウェストはすべてのビジネスリーダーがすべきことを実行した。自社の体制は戦略目標にふさわしいかどうかを自問したのだ。組織をゼロから設計できるとしたら、どのような姿になるか考えてみよう。

4.なぜ組織が現在のやり方を採用しているか、自分は理解・納得しているか?

 私はケーススタディ執筆などの理由で新しい会社について学ぶ時、その会社の方法論を突き止めるだけでなく、それを採用している理由も探ることを常としている。「なぜ、このやり方で実行しているのですか」とはっきり尋ねると、驚くほど頻繁に次の回答が返ってくる。相手は肩をすくめながら「これが当社の昔からのやり方ですから」と口にして、そして「この業界では誰もがこのやり方でやっています」と言うのだ。

 問題は、そのやり方の理由を相手が説明すらできなければ、私はそれが最善のやり方だと納得できないことだ。たとえば10年以上前、英国の某大手新聞社と協働していた私は、「ここの新聞のサイズはなぜこんなに大きいのですか」と尋ねた。すると「高級紙はどこも大型版です。読者は別のサイズなんて望みはしませんよ」という返事だった。数年後、ライバルである『インディペンデント』紙がサイズを半分に縮小すると、部数が急増した。多くの同業他社がこれに続き、同様の効果を得た。そう、読者はそれを望んでいたのだ。

 後に、私は次の史実を知った。新聞を大型版で刷る慣行は、1712年にロンドンで始まる。その理由は、英国政府が新聞社に対し、ページ数に基づいて課税することを決めたからだ。新聞各社は対応策として、必要な紙面数を最小限に抑えるために、「ブロードシート」と呼ばれる大きな判型で印刷するようになった。この税法は1855年に廃止されたが、新聞各社は実用的ではない大型版での発行を続けたのだ。

 多くの慣行や習慣は、これと似たようなものだ。当初は完全に真っ当な理由で始めたが、状況が変わった後も、企業はそのやり方をただ続けてきた。この問題についてじっくり考える時間を取り、こう自問してみよう。「自分たちがいまだにこのやり方を続けている理由を、自分は本当に理解しているか?」。答えられなければ、間違いなくもっとよいやり方があるはずだ。

5.長期的にどんな影響が生じるのか?

 戦略と組織について熟考するなかで自問すべき最後の問いは、主要な戦略行動が長期的にどんな結果をもたらすか、である。私たちは往々にして、物事を短期的な結果で判断する。そのほうがわかりやすいからであり、短期的に望ましいことを行動方針とし続ける。だが多くの戦略行動において、長期的な結果は異なる場合がある。

 たとえば、英国で体外受精による不妊治療を行う病院の多くは、治療が比較的簡単な患者だけを選んで受け入れている。その目的は短期的な成功率(治療に対する新生児誕生の数で測定される)を上げることだ。この慣行によって、(最初のうちは)業界の「ランキング表」での好成績をアピールできるため、商業的には理にかなっているように思える。

 しかし、私がユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのミハイル・スタンと実施した調査によれば、これは長期的には逆効果になる。貴重な学習機会が失われるため、長い目で見れば相対的な成功率は低下するのだ(英語論文)。

 新しい戦略や慣行を始める時には、事前に長期的な影響を測定することは当然不可能だ。しかし、じっくり考えることはできる。たとえば、これらの病院のさまざまな医療専門家たちに、難しい患者を治療することでどんなメリットが考えられるかを尋ねたところ、彼らは学習効果に思い至り、それをかなり明確に述べることができた。つまり、メリットを測定することは不可能でも、慎重に検討することで、長期的に起こりうる結果を行動前に認識できたのだ。ある行動の影響は、短期と長期で異なる場合が多い。したがって腰を据えてじっくり考えなければならない。

 戦略とは本質的に、不確実性の下で複雑な意思決定をすることであり、そこにはリアルで長期的な結果が伴う。だからこそ十分な時間をかけて、何事にも邪魔されずに、深く内省し熟慮する必要がある。目の前の状況やビジネスでのさまざまな事象を、ただそのまま受け入れてはいけない。リーダーシップには実行だけでなく、思考も問われるのだ。そのための時間をつくろう。


HBR.ORG原文:5 Strategy Questions Every Leader Should Make Time For September 03, 2015

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フリーク・バーミューレン(Freek Vermeulen)
ロンドン・ビジネススクール准教授。戦略とアントレプレナーシップを担当。著書にBusiness Exposed: The Naked Truth about What really Goes on in the world of Business (邦訳『ヤバい経営学』東洋経済新報社、2013年)がある。