3.補完的事業の調整

 この典型例は、航空会社の合併時に行われる、空路網や空港のゲート、備品などの統合だ。こうしたタイプの統合価値は、製薬業界よりも、コンピュータや工業製品の分野でより多く見られる。アルカテル・ルーセントとノキアは合併によって、前者のインターネット関連技術と後者のモバイルコミュニケーション技術の統合を図ろうとしている。その目標は、両方の分野を股にかける中国のファーウェイ(華為技術)に、IoT市場で対抗することだ。合併ではないが提携を発表したシスコとエリクソンも、同様の論理で動いている。

 ファイザーとアラガンは、この面でそう多くの価値を生むとは考えにくい。製品に関しては販売と経営の統合によるメリットがあるかもしれないが、より広いシステムにおいては、両者は相互補完的な存在ではない。

4.将来の選択肢

 資産が統合されると、将来の成長に向けた選択肢や取りうる戦略が増える場合がある。これは企業がリスクと不確実性に対処するうえで重要なメリットとなる。イーベイによるペイパル買収がその一例だ(買収時の意図は違ったかもしれないが)。やがてペイパルは、イーベイ上での取引決済に頼らずともやっていけるインターネット事業の雄となり、分社化された。

 複数のアナリストによれば、ファイザーとアラガンの合併には、この将来の選択肢においてメリットがあるという。ファイザーは、急成長中の新薬と成長が鈍化した従来薬を抱えている。2つの事業を分社化すれば都合がよいが、そうすると新薬事業は規模のメリットを失い、さらに従来薬からのキャッシュフローも逃すことになる。そこで今回の合併が有効となる。アラガンから成長性と利益性の高い新薬が製品ラインに多く加わり、分社化が可能になるというわけだ(英語記事)。

 選択肢の拡大で生じる統合価値は、測定が非常に難しい。株主はそれを確実な利益ではなく、残余的な価値と考えることが多い。そのため投資家は通常、合併のメリットを将来の可能性ではなく具体的なコスト削減の効果で判断する。

 ファイザーとアラガンの合併によって、ある程度のコスト削減が図られ、戦略的柔軟性が将来の利益につながる可能性もある。そこから期待される統合価値は、買収プレミアムの額を埋め合わせるほどになるだろうか。一見したところ、そうは思えない。だが、ここでポイントとなるのが税金だ。

 ファイザーの狙いの一部は課税逆転にある。法人税率が大幅に低いアイルランド(12.5%)に本社を移すことで、租税負担を軽減できるからだ(米国は35%)。一部の推定では、ファイザーの株主が受ける節税効果は年間20億ドル、今日の価値に換算すると200億ドルになる(英語記事)。これを前述のコスト削減分の200億ドルと合算すれば、買収プレミアムのコスト(350億ドル)は埋め合わせることができる。

 この節税は、合併による統合価値に該当するのだろうか。答えはノーである。顧客や社会に与える付加価値から生じるものではないからだ。将来の利益を、米財務省からファイザーとアラガンの株主(特に後者)に移す行為にすぎない。これら製薬業界の巨人がダブリンの新たなオフィスで、それより有益な成果を上げることを願うばかりだ。


HBR.ORG原文:The Pfizer-Allergan Deal Shouldn’t Be Just About Tax Inversion November 24, 2015

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ベンジャミン・ゴメス=カサレス
(Benjamin Gomes-Casseres)

ブランダイス大学インターナショナル・ビジネススクール教授。アライアンス戦略の専門家として30年にわたる研究、指導、コンサルティングの経験を持つ。著書にRemix Strategyなどがある。