諸研究によって、長時間労働はよくも悪くもないという中立的なものではなく、従業員と会社の両方に害を与えることを示す非常に多くの証拠が明らかになっている。フィンランド労働衛生研究所のマリアナ・ビルタネンらが行った数多くの調査によると、過重労働およびそれに起因するストレスは、睡眠障害、鬱、過度の飲酒、糖尿病、記憶障害、心臓病を含むさまざまな健康問題を引き起こすという(英語記事)。同様の結果を示した調査は他にいくつもある。

 当然、それら自体も問題だが、その結果として常習的欠勤、離職、健康保険負担額の増加といった形で、会社の収益にも悪影響が及ぶ。従業員の幸福など顧みない強欲極まりない経営者といえども、常軌を逸した労働時間が現実に会社のバランスシートを悪化させる、という確かな証拠からは逃れられない。

 対人コミュニケーション、意思決定、他人の表情を読むこと、そしてみずからの感情をコントロールすることが職務上必須である人にとっては、事態はさらに厄介だ。現代の職場ではそのどれもが必要だが、複数の研究によれば、過重労働(およびそれに伴うストレスと疲労)のせいでこれらが困難になるという(英語記事)。

 仕事が楽しくて自発的に長時間労働をする場合でも、疲れていたらミスを犯しやすくなる。人は自分が思う以上に疲れやすいのだ。5~6時間しか睡眠を取らなくても作業効率が下がらない人は、米人口のわずか1~3%にすぎない。さらに、「自分は睡眠が少なくても大丈夫」と考えている米国人の中で、実際に大丈夫なのはたった5%である(英語記事)。ハーバード・メディカルスクール教授のチャールズ・A・ツァイスラーがHBRで報告した、睡眠不足による作業効率の低下に関する研究を見るだけでも、徹夜がいかに愚かな行為かわかる(本誌論文)。

 過重労働に陥ると大局も見失ってしまう。人は燃え尽きた状態になると、目的への集中力がぼやけ些細なことにとらわれがちとなる(英語記事)。つまり過重労働とは、文字どおり「収穫逓減」である。働きすぎるうちにその意義が失われ、パフォーマンスも下がっていくのだ。

 ビジネス界が初めてそのことに気づいたのは、遠い昔のことだ。19世紀の労働組合が、工場経営者に1日の労働時間を初めて10時間(後に8時間)に短縮させた時である。すると生産量が増加し、高くつくミスや事故が減少したことに経営者は驚かされた。それから1世紀以上が経ち、ハーバード・ビジネススクールのレスリー・パーロウとジェシカ・ポーターは同じような実験を知識労働者に行った。すると現代でも同じ結果が出た。ボストン コンサルティング グループのチームに計画的な休み(夜や週末など)を義務づけたところ、生産性が高まったのだ(本誌論文)。

 もちろん、長時間労働を絶対にしてはならないというわけではない。それを常態化すべきではないということだ。私が目にしたほとんどの研究によれば、深刻な危機をどうしても乗り切る必要がある時に、週60時間労働を1~2週間するのであれば問題ないようだ。それが過重労働として常態化してはならない。

 では、なぜ人は長時間労働を続けてしまうのか。なぜ仕事を切り上げることができないのだろうか。

 その原因にはまず、無知が考えられる。たいていの人々は、過重労働がどんなに悪いことかを客観的に知らないだけかもしれない。あるいは猜疑心もありうる。過重労働が悪いという研究結果は知っているが、単に信じられない(またはあえて信じないようにしている)のかもしれない。さもなければ、何かもっと強力な原因があるのだろう。金銭的な動機、権力を持つ誰かの存在、心に深く根差した欲求――こうしたものが混じり合うと、抗しきれないのかもしれない。


HBR.ORG原文:The Research Is Clear: Long Hours Backfire for People and for Companies August 19, 2015

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サラ・グリーン・カーマイケル(Sarah Green Carmichael)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニア・アソシエート・エディター。