結局のところ、注意焦点の範囲を広げる能力と絞る能力は、どちらも創造性を助ける重要な因子である。ノースカロライナ大学のロジャー・ビーティが主導し、私も協力した神経科学の研究では、次のような結果が明らかになっている。創造的な人の脳では、機能が大きく異なる2つの領域に強いつながりが見られる(英語論文)。すなわち、集中・注意を司る部位のネットワークと、想像力・自発性を司る部位のネットワークだ(英語記事)。

 実際、(深い洞察を得る時だけでなく)創造のプロセス全体においては、高揚とひらめきも、冷静沈着な集中もともに必要なのだ。創造的な人は、どちらか一方だけを特徴とはしない。順応性に優れ、作業に応じて一見相容れない複数の状態を両立できる。たとえば注意焦点の拡大と作業への集中、マインドフルネス(いまこの瞬間への集中)と白昼夢、直感と合理性、激しい反骨精神と伝統の尊重などだ。言い換えれば、創造的な人の頭の中は混沌としているのだ。

 他にもこんな研究がある。極端または激しい感情を定期的に経験していると答えた人のほうが、単にポジティブまたはネガティブな感情を報告した人よりも、創造力の測定で高得点を記録したという(英語論文)。情熱と激しさを持って人生を送ること、人間としての経験を深く味わうことは、何らかの形で創造性に寄与するようだ。私自身の研究では、芸術的な創造性に関しては「感情的関与(affective engagement)」のほうが、IQや知的関与よりも優れた予測因子であることが判明している(英語論文)。感情的関与とは、自己のさまざまな感情にどれだけ忠実であるかという度合いだ。

 私たちは、純粋に幸福だけ、あるいは悲しみだけに満たされるという状態にはめったにならず、たいていは複数の入り混じった感情を持つ。カーネギーメロン大学シニア・リサーチサイエンティストのクリスティーナ・フォンは、ポジティブな感情とネガティブな感情を同時に経験する「感情的アンビバレンス」が創造性に与える影響を調べたことがある(英語論文)。その研究によれば、通常は一緒に持つことのない複数の感情(たとえば興奮と落胆)を同時に経験することは、「その人が特異な環境下にいて、そこには(複数の概念間における)特異な関連性が存在するかもしれない」ことを示しているという。ふだんは気づきにくい意外な関連性を見抜く能力は、創造性に貢献する重要な因子だ。

 従前の研究では、感情的アンビバレンスがどんな状況で生じやすいかが示されている。たとえば社会的地位の高い女性のほうが、低い女性よりも感情的アンビバレンスが顕著だという(英語論文)。また、組織に採用された直後や、組織社会化(組織の新メンバーを、教育を通じて組織に順応させていくプロセス)を受けている時にも、同様の傾向が見られる(英語論文)。フォンの提案によれば、マネジャーはおそらく「社会化の期間に創造的思考を要する任務を与えれば、恩恵を享受できるだろう。あるいは新入社員(社会化のプロセスを経験中である可能性が高いメンバー)に、創造的な任務を割り当てるのもよい」。言い換えれば、感情が複雑になっている時こそ、創造性を発揮できる好機かもしれないということだ。

 フォンの研究はまた、環境の特異性と感情的アンビバレンスが密接に関連していることを示唆している。そして「自分は通常とは違う環境にいる」と考えている社員は、創造的思考を高めるという。ディズニーやIDEOのような革新的企業はこの点を十分に承知しており、社員たちは風変わりな職場環境から恩恵を受けている。カリフォルニア州パロアルトにあるIDEOのオフィスでは、飛行機や自転車が天井から吊るされ、ビーズカーテンがドアとして用いられ、クリスマスツリーの電飾が一年中飾られている。どこに行っても、おもちゃや面白い小物、そして過去のプロジェクトで使われた模型が置かれている。

 心理学の諸研究によれば、奇妙で予期せぬ出来事を経験することは、創造性の誘因として極めて重要だ。予期せぬ出来事は、当然ながら複雑な感情を掻き立てやすい。そしてフォンが示したように、複雑な感情は特異な関連性やアイデアに対する感度を高める可能性がある。

 創造性における感情の役割について、ここまで挙げてきた最新の研究をまとめてみよう。

 チームの創造性を高めたいマネジャーは、社員の間でポジティブな感情を引き出すこと、あるいはネガティブな感情を一掃することに専念するのではなく、他の要因も考慮するとよい。その職場環境は、感情的アンビバレンスを引き出しているだろうか(その環境に何か特異・風変わりなものはあるか。矛盾するさまざまな感情を誘発するか)。動機の強度はどう作用しているだろうか(注意焦点の範囲が広がるのか、それとも狭まるのか)。

 イノベーションにおける感情の役割について、白か黒かという単純な概念は超えるべき時が来ている。その代わりに、創造的プロセスに付きものである混沌を受け入れるべきなのだ。

(著者注:本記事で引用した研究の多くに目を向けさせてくれた、アダム・グラントに感謝する。)


HBR.ORG原文:The Emotions That Make Us More Creative August 12, 2015

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スコット・バリー・カウフマン(Scott Barry Kaufman)
ペンシルベニア大学ポジティブ・サイコロジー・センター内にある、イマジネーション・インスティテュートのサイエンティフィック・ディレクター。創造性に関するコンテンツのプラットフォーム、ザ・クリエイティビティ・ポストの共同創設者。著書にUngifted: Intelligence Redefined、キャロリン・グレゴワールとの共著にWired to Create: Unravelling the Mysteries of the Creative Mindがある。