日置 さらに言うと、改革を担うべきミドル層の意識付けも課題だと感じています。次世代のリーダーたちが将来を見据えた時に、果たして自社はどれだけ追い込まれているのかを正しく認識する。この危機感を共有することこそが、改革の出発点になると思いますので。

入山 それはすごく大事な視点ですね。実は大きな組織の中では、経営者や中間管理職、従業員といった職位や、携わっている事業などによって、自社の経営状態に対する危機感の強さは異なってくることが多いと思います。組織における様々な立場の人が同じ事態に対してどれだけ違うパーセプション(見方)を持っているかは、大掛かりになるためあまり取り組まれていませんが、日本企業の現状を正しく認識し変えていくうえでも、研究が有効な分野だと思います。

日置 興味深い研究です。階層によって、特に大企業では全くバラバラな結果が出て来る会社もありそうです。実際、組織や機能の成熟度を調査すると、大抵上位層ほど自己認識が甘くなるので、経営者にとっては、調査するのはちょっと怖いかもしれません。

入山 それから、例えば多国籍企業の従業員に対して「どこを最大のライバルだと思いますか」という質問をしてみても、現地と本社では異なった答えが返ってくる場合も考えられます。いずれにしても、こうした危機感の共有がなされていないレベルでは、改革のスタート地点には立てない、ということです。

追い込まれる前に、自ら変革する人材を育てる

日置 僕は経営層向けの講演では、「変革を阻むのは、ご自身かもしれません」と語りかけることにしています。改革を成功させるためには、経営者が今後のビジョンを思い描き、先手を打って変化を起こしていかなければならないのはもちろんですが、改革を率いる経営者自身が自らの経験に捕らわれた意識を捨て去り、ドメスティックで固定的な意識を変えていかなければならない、という意味でそう言います。そのためには、自らの経験していないことを経験してきた新しい時代のリーダーを認めるだけの度量の広さが求められるのだと感じています。

入山 確かに、「CEOの仕事は次のCEOを選ぶこと」とはよく言われることです。その重要性を認識されている企業は、日本企業であってもグローバル企業であっても、CEOの就任後すぐから、じっくり後継者を探し始めますし、しっかりした選抜・育成の仕組み作りをされています。それは企業が環境変化に対応するための、重要なポイントの1つだと考えます。

 後継者選びを、どのような基準でどこまで深く考えているか。これもその企業の変化への対応力を測る尺度ですね。次世代の環境変化や技術革新、それに合わせた自社のビジネス上の変化を見越したうえで、後継者を選ぶ旧経営陣の側にも、覚悟が求められるということです。

日置 なるほど、そこは世界共通ですね。日本企業でも部署間のローテーションは頻繁に行われますが、グローバル企業では、早い段階で候補者を見極め、海外の2、3カ国の異なる市場の経験や複数の事業部門でのマネジメント、中には、事業部門長と機能軸での全社最適を実現する役割の兼務など、グローバル経営に必要となる変化対応力や許容力といったスキルを磨かせるための仕組みを確立している企業もあります。真のジェネラリスト育成ですね。グローバル経営を標榜するならば、これは見習うべき点かもしれません。

 それから人材育成に関してはもう1つ感じたことがありまして、最近若い人たちと話して驚いたのは、中国は最初から日本よりビジネス的にも大国だという認識なんですよね。僕らの世代は「中国に抜かれた」という感覚があるのですが。「日本は世界第2位の経済大国だ」とか変な先入観が無い若い世代の方が、企業を取り巻く現状をありのままに見られるということもあります。

入山 面白いですね。我々が社会に出たバブルの後期は、日本が丁度、方向性を見失っていた時期かもしれません。若い世代は、こういった経緯に縛られずにこれから目指すべき新たな方向性をつかんでいける可能性はありますね。

日置 そうですね。「2位に上がった」20歳上の世代、「3位に転落した」私たちの世代、「最初から3位だった」20歳下の世代が共存する組織で感覚を共有するのは難しいですが、「日本は右肩下がりだ」とか「企業とはこういうところだ」という変なバイアスがかかっていない若者たちの新鮮な感覚をもっと大事にして、今と未来の危機を感じ、変革に動かなければならないのでしょう。日本企業が前提としてきた安定的な環境はもう崩れているのですから。

 今回の話の中で、その日本企業を支えてきた前提の1つとして長期雇用などの労働力の特徴が挙がりましたが、成長戦略でも「生産性革命」が取り上げられていることもあり、次回は、人口減少時代が本格化する中で、大きく変わりつつある労働力のあり方について議論しましょう。