相手を理解し、自分自身を理解する

 冒頭のエピソードを思い出したのは、「初頭効果」のパートを読んでいた時である。「一度作られてしまった印象をあとから変えることは大変困難であり、だからこそ第一印象を正しくすることが大事」という分析を裏づける経験はいくらでも思いつく。最初の挨拶、最初の一言の印象が強く残り、自分自身が冷静な判断を下せていないことは多い(この経営者は心から尊敬できるすばらしい方であった。念のため)。

 社会心理学を扱う書籍への批判でよく目にするのは「当たり前のことしか書いていない」「実生活には役立たない」というものである。たしかに、よほどの状況でなければ第一印象は良いに越したことはない。また、好印象を与えるために細かな言動まで逐一気を配るのは、現実的にはほぼ不可能である。そのため、そうした批判が必ずしも間違っているとは言えない。ただ、最初の印象に囚われて過度に低い(高い)評価を下すことはなかったかと省みて、いまの関係を見直すきっかけにもなる。

 本書の「おわりに」で記されている通り、コミュニケーションの肝は「相手を正しく理解すること」と「自分自身を明確に理解すること」に尽きるのではないか。相手がどのようなバイアスに支配されやすいのか、あるいは、自分はいかなる思い込みを持ちやすいのか。それを頭の片隅にでも理論として備えておくことで、日々の出会いがより意味あるものに変わるだろう。

“小難しい”理論を省略したエピーソドベースで語られ、現実と照らし合わせながら疑似体験ができる本書は、自分の意図を正しく伝えるツールに留まらず、親と子、上司と部下、友人関係など、これまでの関わり方をあらためて評価して、より有意義な関係を再構築するヒントになるのではないか。