顔の見えない日本的経営を脱する

 では、欧米グローバル企業を手本としてきた多くの日本企業は、EMNCが提示する新しい経営モデルをどうとらえるべきなのだろうか。新興国企業の経営層と話していると、彼らが欧米企業と日本企業に向ける眼差しから、2つ気付かされることがある。

 1つは、彼らから見れば、こうした課題を抱えているのは、日本企業も欧米企業も同じということだ。日本ではともすれば欧米企業がグローバル経営の模範とされがちである。しかし、新興国の視点では、欧米企業といえば、スピードの遅さ、手続き重視の官僚的組織、リスクを嫌う組織文化などが批判されることも多い(ただしブランド・技術・競争ルールなどの歴史的蓄積と、それを巧みに活用する経営手法には一定のリスペクトがある)。そして現在は、その欧米企業自身が、「リバース・イノベーション」と呼ばれる取り組みを始めとして、新興国に由来する強みを内部化する努力を始めている。見習うべきことを間違えてはならないし、ベストプラクティスを求めるなら複眼的な視点を持つべきである。

 そしてもう1つ気付かされるのが、彼らEMNCは、「今」の日本的経営についてほとんど知らないし、大して注目も期待もしていないということである。もちろん、日本企業自体は一定の存在感があり、製造業をはじめ信頼あるブランドも多く、アジアを中心に日本企業とEMNCとの提携も少なくない。しかし彼らの頭にあるその経営手法のイメージは、誤解を恐れずに言えば、かつて彼らがそれをモデルとして学んだ1980~90年代で止まっている。その後の環境変化の中、日本企業も多くの試行錯誤を経て、進化しているはずである。しかし、かつて世界の経営論を席巻した「世界No.1の日本型経営モデル」の議論から30年近くが過ぎても、新しい経営モデルが何なのか、そもそもそうしたものを生み出そうとしているのか、世界に知られているとは言い難い。

 日本企業としてはまず、他者の長所を吸収し、自らの実態を磨かなければならない。そしてそれに加えて、成功モデルを世界に発信することをおろそかにしてはならない。自分たち自身を客観的に、しかしポジティブに語ってこそ、プレゼンスを築き、知名度と評価を高め、優秀な人材を惹きつけることができる。EMNCでも一部の企業は、書籍やビジネススクールなどのメディアを活用して、すでに自らを「成功モデル」として積極的に発信し始めている。その意図は、未来のステークホルダー(特に、採用対象となるトップ層人材、投資家、提携相手、将来顧客)からの評価への投資である。

 新興国企業の躍進が突きつけるメッセージには、こうした強い実態を作ったうえでの、効果的な発信の重要性もある。モデルが新興国であれ欧米であれ、他人が作った「教科書」を真似るだけでは、本家には勝てない。自らが希望と覚悟も含めて成功モデルを提唱し、日本的経営を上書きして、再びこちらから発信していくべき時が来ている。