経済界にも科学界にも寄与する
「レーズンパン」をつくる

 ここからは、このフレームワークに基づいて解説する。今回はまず、どのよう人工知能ビジネスのビジネスモデルを開発するかを議論する。

 本稿で目指すのは、人工知能ビジネスにおけるビジネスモデルの分類ではなく、どのようにビジネスモデルをつくるかというプロセスのフレームワークであることにご留意いただきたい。“ビジネスモデルのつくり方のつくり方”とも言えるだろう。

 経済界を「パン」、科学界を「レーズン」とすると、人工知能“劇場”が手がけるのは「レーズンパン」だ。パンはパンだけでも美味しいし、レーズンもレーズン単体で食べることができる。ただ、両者を融合することによってより魅力的なレーズンパンをつくるのが人工知能“劇場”の役割だ。

 このレーズンパンのアナロジーを教えてくれたのは、2015年の4月に設立されたリクルートのAI研究所「Recruit Institute of Technology」でアドバイザーを務める、オレン・エチオーニ氏だ。エチオーニ氏は元ワシントン大学の教授で、現在は、Microsoftの共同創業者であるポール・アレン氏が設立したAllen Institute for Artificial IntelligenceのCEOを務めている。

 彼は科学者の研究に対する相対的な貢献度を表す「h-index」が73と非常に高いにもかかわらず(ノーベル物理学賞受賞者のh-indexの平均は41)、みずから起業した会社を計7回バイアウトした経験を持つ。バイアウト先の企業もMicrosoftやeBayなどを含む一流企業だ。まさに、レーズンパンの体現している人物と言える。

 レーズンパン型の研究所運営と対照的なのがオニギリ型だ。レーズンパンはどこを切ってもレーズンが偏在しており、テクノロジーとビジネスが完全に融合している。一方でオニギリ型は、「中央研究所」という具材が中心に埋め込まれており、ご飯と具材の距離は遠い。

 人工知能分野のR&Dが他の技術開発と圧倒的に異なるのは、人工知能が進化するうえでもっとも大切なのはデータであり、高速でプロダクトアウトしてA/Bテストを繰り返しながら、大量のデータを取得し、提供サービスのユーザーエクスペリエンス(UX:顧客経験価値)を改善することだ。同時に。それをサポートするアルゴリズム自体も劇的に改善していく必要がある。

 人工知能分野のR&Dを他分野のそれと比べた場合、短期と長期、基礎と応用の垣根が著しく低い分野なのである。中央研究所は溶け始め、スタートアップ化しているとも言えるだろう。サンフランシスコのスタートアップが高額なオファーを出し、各国の科学者やエンジニアが流出するという話も耳にする。それはオニギリ型マネジメントの弊害だ。ビジネスとの距離が生まれ、ROI(投資対効果)が不明瞭になることで人材への投資ができなくなっている状態である。

 レーズンパン型をつくるための最初の一歩は、人工知能“劇場”における主役の選定だ。劇場にとってキャスティングは死活問題である。このときの主役の人材要件は、高いレベルで科学界と経済界の両方での実績があることが望ましい。先に紹介したエチオーニ氏は、まさにロールモデルと言えるだろう。

 ただ、片方の実績しかない人材を主役に選定する例が良く見られる。そこから生まれるのが「レーズンのジレンマ」と「パンのジレンマ」である。

 まずレーズンのジレンマから紹介しよう。レーズンのジレンマは科学者ではあるが、ビジネス経験の浅い人材の場合に発生するケースがある。この際のリスクは、大きく以下の3点だ。

<レーズンのジレンマ>
1. 対科学界:良いテクノロジーからは必ずビジネスリターンが生まれるという迷信
2. 対人工知能“劇場”:経営を動かせず、中途半端な投資に終わり、インパクトが小さくなる
3. 対経済界:ステークホルダーへの説明力が足りず、十分なデータを獲得できない

 

 また、パンのジレンマは、ビジネス経験は十分であるが、テクノロジーの専門家ではない場合に発生する。

<パンのジレンマ>
1. 対科学界: Yesマンの研究者しか採用できない
2. 対人工知能“劇場”:サードオピニオンを求め続け、意思決定が遅れる
3. 対経済界:人工知能の適用範囲を広げられない

 

 ビジネス界からのマーケットインによるウォーターフォール型の開発は適用範囲の狭い受託型の開発になり、ムーンショット(壮大な挑戦)は生まれにくい。また、科学界からのプロダクトアウトによる中央研究所型のウォーターフォール開発では、高いレベルのテクノロジーが生まれたとしてもビジネス規模が最大化されない。

 こうしたジレンマを解消するのがレーズンパン人材の役割だ。以下にレーズンパン人材の人材要件と求められるパフォーマンスを整理しよう。

 誰よりも早いスピードで科学界と経済界のPDCAサイクルを回すとともに、誰も思いつかない人工知能の活用アイディアを創造し、自身の高額な人権費に見合うリターンを出し続けることが要求される。