データを公開すれば、想定を超えるソフトができる

――国内でのオープンデータの活用事例には、どのようなものがありますか。

 YRPユビキタス・ネットワーキング研究所が協力して、2014年に東京メトロがオープンデータ活用コンテストを行いました。すでにホームページで公開している列車時刻表、駅別乗降人員、バリアフリーなどの情報に加え、全線の列車位置、遅延時間などにかかわる情報をオープンデータ化し、これらのデータを活用したアプリの開発を競い、わずか2カ月間で約300もの応募がありました。

 一つのソフトを開発するのに1カ月の期間と300万円程度のコストがかかるとして試算すると、300の応募では約10億円。賞金総額200万円で東京メトロはソフト開発費10億円を節約できた計算です。

  オープンデータ活用のメリットは、こうしたコスト削減に留まらず、我々が思ってもみなかった発想のソフトが開発されることも挙げられます。東京メトロがさまざまな情報をオープンにしたのは、たとえば、駅構内の乗り換えを効率的に、バリアフリーで移動できるような案内を表示するなど、利用客の利便性が向上するようなアプリ開発を想定してのことです。実際はそれだけではありませんでした。

 面白かったのは、わざわざバリア(障害・障壁)のある移動経路を案内表示する「バリアアリー」です。エレベーターのある経路ではなく、階段がどこにあるのかを教えてくれて、歩数を稼いでトレーニングに役立てるというものです。また、鉄道オタクの人は、エンタテイメントアプリを開発しました。自分が乗った車両をスタンプカードに記録していく仕組みです。鉄道会社や我々のような技術者には、そんなやわらかい発想はありません。想定外の参加者が想定外のアプリを開発することは、オープンデータによるイノベーションにほかなりません。

 私が参画している公共交通オープンデータ協議会では、鉄道、バス、飛行機などの運用に関する情報や、駅、停留所、空港といった交通ターミナルの施設情報のオープンデータの実用化を推進するためにさまざまな研究を行っています。我々が目指す情報提供は大きく三つあります。一つは、「リアルタームデータの提供」。事故やトラブルがあったときに、乗客に的確な情報提供を実現するもので、鉄道だけでなく、バスやタクシーなど業界の垣根を越えた情報流通について研究しています。

  二つ目は、「多言語による情報提供」。2020年の東京オリンピック開催に向けて、国際都市にふさわしい情報提供は喫緊の課題です。最近は、機械翻訳の技術が発達し、外国語に翻訳することが比較的簡単になりましたが、それでも「準急」「快特」「特快」「準特急」といった言葉を外国語に置き換えるのは日本人でも難しく、標準となる“辞書”が必要だろうとの議論があります。

 駅名を外国語に置き換える際に、鉄道会社でポリシーがばらばらな点も問題です。「山」を「Mount」とするか、「Yama」とするかは統一していく必要があります。また、日本人には理解できるメッセージも、主語が省略されているために機械翻訳にかけられないケースも多くあります。意味を機械的に解釈できるデータ形式についても研究しています。

  三つ目は、「超高齢化社会に向けた情報提供」です。特定の交通事業会社が、視覚障害者や聴覚障害者、肢体が不自由な高齢者など、あらゆる交通弱者の要求に応える情報提供サービスを開発するのは、物理的にも難しいでしょう。これをオープンデータにすれば、障害者の方たちと連携したサービスの開発が可能になります。実際に研究会では、音声によって運行情報を読み上げる「SaSys(サシス)」というアプリを開発して、実証実験を行っています。