1.従業員にアイデアの創出を求めながら、それを形にするための仕組みを設けていない

 3Mやグーグルのエンジニアは、勤務時間の15~20%を本業以外の活動に費やして、アイデアの芽を育む――この手の魅力的なストーリーに、企業幹部はよく惑わされる。アイデアの断片を集め、加工し、しっかりと実のあるイノベーションへと結実させるためのメカニズムが、自社には本当にあるだろうか? もしあるならば、ぜひアイデア出しを積極的にやらせるといい。だがないのであれば、けっして実現しないアイデアの長いリストだけが生まれ、冷笑に似た空気が組織に蔓延するだけだ。

 アイデアを活かすための新たな部署を立ち上げよ、ということでは必ずしもない。しかし少なくとも、アイデアを評価・判断するための一連の基準を設けること、そして最良のアイデアが生まれたらそれをどう扱うのかを明らかにしておくことは必要だ。

2.解決に値する問題を明確にしないまま、答えを求める

 イノベーションとは、我々の定義では「価値を創出する新しい何か」である。そして価値は、重要な問題を解決することによってのみ生み出せる。幹部は往々にして、イノベーションを促進する最善の方法は、アイデアに縛りを設けず何でも自由に発想させることだと考える。しかし総花的な取り組みでは、どのアイデアにも十分注力できず枯れさせることになる。

 制約と創造性は、驚くほど相性がよい。企業が解決すべき問題は、たとえば新たな市場への参入に関するものから、従業員エンゲージメントの低迷といった日常の懸念まで、さまざまにあるだろう。どんな課題であれ、できるだけ具体的に設定することが望ましい。

3.リスクテイクを奨励しながら、商業的な失敗にペナルティを課す

「うまくいかない1万通りの方法がわかったのだから、失敗ではない」と、かつてエジソンは言った。「私は落胆していない。うまくいかずに断念したどの取り組みも、前進につながるからだ」。たしかに学術論文によれば、ほぼすべての商業的成功は、途中のどこかで失敗を経ていることが示されている。しかしほとんどの企業では、商業的に「失敗」したプロジェクトに取り組んだ経験は、キャリアの危機を招くほどではないまでも、大きな不名誉とされる。したがって、誰もが無難なやり方をするようになるのも当然だ。

 企業は失敗を奨励すべきだ、というわけではない。死なせた患者について誇らしげに語る外科医など、想像できるだろうか。愚かな行為、ずさんな仕事、事業を揺るがすような大失敗をした従業員は、必ず責任を問われなくてはならない。ポイントは、イノベーションの取り組みの初期においては、一見失敗のように思えることでも失敗ではない、と認識することである。

4.充実した実験室を使わせないまま、実験を要求する

 イノベーションの成功は秩序立った実験によってもたらされる、ということが十分に理解されるようになってきた。エリック・リースの『リーン・スタートアップ』やその類書に魅せられたリーダーは、実用最小限製品(Minimum Viable Product)の開発や、アイデアを迅速に試すその他の方法を見つけるようチームに求める。たしかに、賢いテスト方法を見つけることはイノベーションの成功に不可欠だが、試作品さえあれば済むわけではまったくない。

 なぜライト兄弟が、人を飛ばす機械をつくれたのか考えてみよう。当時、飛行を目指した人々のほとんどが、何年もかけてアイデアを基に試作機をつくり、命を懸けてそれをテストした。一方のライト兄弟は、凧を飛ばし風洞をつくって実験を重ねた。社内のイノベーターが、凧をつくる資材を持っていない、あるいは凧を飛ばす空間がない、もしくはその実施に当たり12の承認が必要であるなら、活発な実験は期待しないほうがよい。

5.十分なリソースを配分しないまま、ブレークスルーを求める

 あまりに多くの企業が、「ポチョムキン村」のような事業ポートフォリオを設けている。ロシアの公爵グリゴリー・ポチョムキンは、女帝エカチェリーナ2世の視察を迎える時、張りぼての装飾で村を飾り、荒れ地を隠したという。企業も同じように、書類上は見事な事業計画を並べるが、それらを実現するためのリソースを考慮していない。

 イノベーションは大仕事である。スタートアップ企業の大多数は失敗に終わるが、失うものがないチームによる骨身を惜しまぬ努力をもってしてもそうなのだ。大企業が最良のアイデアにしかるべきリソースを投じないことは、失敗を招き寄せることと同じである。

6.イノベーションに特化したリソースを設けずに、破壊的なアイデアを要求する

 企業は既存事業を維持するための投資を優先し、未来の事業をつくる可能性のある取り組みには投資したがらない――これが、クレイトン・クリステンセンの名著『イノベーションのジレンマ』の核心だ。しかしある意味それはしごく合理的でもある。結局、既存事業に資金を投じれば、測定可能なリターンを短期間でもたらしてくれる。まだ事業として確立していない取り組みに投資しても、リターンは目に見えず、それが未来のいつ生じるのかも明らかではない。イノベーションへの投資が長期的には望ましいとわかっていても、そのためのリソースを別枠で設けなければ、短期主義が必ず優先されてしまうのだ。

 より多くのアイデア創出と実験を促すこと、そしてブレークスルーを求めることには、もちろん有益な面が多々ある。しかし、それらを実現するための論理的整合性が自社にあるかどうか、時間をかけて考えてみよう。システムレベルで考えることで、インパクトを生むチャンスを最大化できる。そしてコスチュームを着るような事態に追い込まれる可能性を、最小にできるのだ。


HBR.ORG原文:The 6 Most Common Innovation Mistakes Companies Make June 23, 2015

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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイトのマネージング・パートナー。同社はクレイトン・クリステンセンとマーク・ジョンソンの共同創設によるコンサルティング会社。企業のイノベーションと成長事業を支援している。主な著書に『イノベーションの最終解』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションのへ解 実践編』(ジョンソンらとの共著)、新著に『ザ・ファーストマイル』がある。

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ポンタス・M・A・サイレン(Pontus M. A. Siren)
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