こうした例をふまえると、起業家が特定のデジタル事業を海外で模倣・再現する際には、考慮すべきポイントがいくつかある。

●参入障壁はメリットにもなる

 参入障壁が価値をもたらすというのは、戦略の古典的な教えである。地域市場に参入障壁が見当たらない環境を狙うのは、大きな過ちにつながる。摩擦のない環境には迅速に参入できるかもしれないが、将来的にはライバルも容易に参入してくる。だが地域的な難題を克服すれば、将来のライバルに対して参入障壁を築いて事業価値を創出できる。

 グルーポンは、2013年にブリンク・ブッキングを買収した。その際、ミングエラが地道な戸別訪問を通じて獲得した取引先のホテルと顧客に多大な価値を見出した。すでに一部の起業家は、模倣した企業がグローバル展開を始める時に、自社をそこに売却している(たとえばロケットインターネットは、グルーポンを模倣して欧州で展開したシティディールを、グルーポンに売却している)。

●模倣したモデルは、多分に変更が必要となる

 模倣したモデルを事業として立ち上げてみると、かなり異なるものになる場合も多い。最近HBSを卒業したオリバー・セゴビアは、eコマース企業AVA.phをフィリピンで立ち上げたが、これは高級ブランドを扱うフラッシュセールのサイト、ギルト・グループのコンセプトの模倣であった。しかしセゴビアはすぐに、大きな変更が必要であることに気づいた。

 フィリピンでは、顧客の3人に2人が公共のコンピュータからインターネットにアクセスし、3人に1人が代引きで支払い、インフラと物流が事業上の大きなハードルとなっている。セゴビアはこれらの問題に取り組むなかで、当初とは別の商機を見出していく。地元のデザイナーとブランドを多数取り込んだ、女性ファッションの一般的なECプラットフォームを提供するほうが、AVAにとって最大の商機を生み出すと気づいたのである。

●ネットワーク効果のタイプをしっかり検証する

 ほとんどのデジタル事業はネットワーク効果を伴う。ユーザーがそのプラットフォームに参加する価値は、他者がどれほど参加しているかに左右される。イーハーモニーやグルーポンのように、ローカルなネットワーク効果(都市や特定地域)から恩恵を得ている事業もあれば、空き部屋仲介のエアビーアンドビーやクラウドソーシングのイーランス・オーデスクのように、強力なグローバルネットワークを特徴とする事業もある。

 また、その中間で成長している事業も多い。たとえばウーバー(Uber)のネットワーク効果の大部分はローカルだが、海外出張者も外国の大都市にウーバーがあることに価値を感じている。ローカル規模のネットワーク効果に限られるデジタル事業であれば、持続的な価値を生む形で模倣しやすい。効果の範囲が広くなればなるほど、模倣元の企業による事業拡大や、他社の反応をふまえた将来の競争シナリオについて入念に検討する必要が生じる。

 事業アイデアを新たな土地で模倣することは、昔から行われてきた。今日では特に、グローバル化の複数の要因によってその機が熟している。だが多くのアプリの裏側には、価値創出の過程で欠くことができない複雑な非デジタルの作業が必要なのだ。

 成功を目指す起業家は、それを肝に銘じておこう。


HBR.ORG原文:How Local Context Shapes Digital Business Abroad June 24, 2015

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ウィリアム・R・カー(William R. Kerr)
ハーバード・ビジネス・スクール教授。起業マネジメントを担当。