●規模とスピードの両立

 アフリカのことわざに、「急いで行きたければ、1人で行きなさい。遠くまで行きたければ、一緒に行きない」というのがある。ほとんどの大企業は遠くまで行くこと、そして一緒に行くことには長けている。だが今日では、どの企業も急がなければならない。より大きくなることと、よりスピードを上げることは果たして両立しうるのか。Visaが最近行った実験は、規模とスピードのトレードオフを乗り越える方法について教訓を与えてくれる。

 カードレス決済の市場が急成長するなかで、Visaの中核事業は脅威に晒されている。4年前、同社も「V.me」というデジタルウォレットのサービスを立ち上げたが、機敏な新規参入企業に対して優位に立つことができなかった。

 だが、その後の「Visaチェックアウト」の立ち上げでは、異なるアプローチを取る。取りえた選択肢は、純粋にスピードに焦点を当てることであり、そのために自社より規模の小さい会社を買収するか、専任の極秘プロジェクトチームを別途つくる方法があった。しかしこれらのやり方では、規模の優位性を失ってしまう。

 解決策は、規模とスピードをともに追求することだった。北米マーケティング担当シニア・バイスプレジデントのララ・バラーシは、Visaのブランド力と市場での地位を活用して、最良のチームの採用、業界の複数のリーダー企業との戦略的提携、そしてカードレス決済市場での広範な認知の創出を実施した。

 同社の規模の大きさは対外的にはメリットとなったが、社内的にはデメリットであった。競合を一気に抜き去るには機敏さが求められたが、同時に12の異なる部署を巻き込む必要もある。つまり「急いで一緒に行く」必要に迫られたのだ。彼女の解決策は、組織図に囚われずに「チーム・オブ・チームズ」(複数のチームが協働する組織)をつくること、そこに「一貫性とコンプライアンス」よりも「機敏さと実験」が重んじられる新たな風土を育むことだった。

 ●利益と社会的意義の両立

 目的や社会的意義を掲げ追求することは、さまざまな理由で歓迎されるようになった。目的主導型のリーダーシップによって、リーダーは能力を発揮しやすくなる。ミレニアル世代(1980年頃から2000年頃にかけて生まれた世代)は、社会的責任を果たす会社に惹きつけられる。ブランドは社会的意義の追求によって活性化し、CSR(企業の社会的責任)の表明にもなる。だが社会的意義はいまだに、あれば越したことはない程度のものか、片手間でやることのようだ。企業の取締役会はいまだに四半期決算に重点を置いている。

 利益と社会的意義の二者択一を迫られ、一部の企業幹部は両方を密接に結び付ける社会事業へと舵を切っている。ただし、社会的意義への意識を強く持つ営利企業のほうが、よい業績を上げることを示す証拠もある。では、伝統的な業界の企業は、どうすれば利益と社会的意義をともに達成できるのか。

 ほとんどの金融機関にとって、利益を得ること自体が目的であり、意義である。だがウェルズ・ファーゴの場合、利益追求の裏には社会的意義がある。CMOのジェイミー・モルダフスキーによれば、ウェルズ・ファーゴではすべての社員が顧客の経済的成功を支援することに注力しているという。この方針はたとえば、「アントールド・ストーリーズ」というイニシアチブに反映されている(英語サイト。アフリカ系米国人の伝統とコミュニティを称えるために、人々の体験談をソーシャルメディアで共有するプラットフォーム)。

 6頭立ての馬車のロゴにふさわしく、ウェルズ・ファーゴの掲げる理念は「車体をけっして馬の前に置かない」(自社の利益ではなく顧客の経済的成功を優先する)ことだ。トレードオフを見事に乗り越えている証として、同社の業績は一貫して社会的意義への意識の低い同業他社を凌いでいる。

 玩具メーカーのゴールディ・ブロックス(GoldieBlox)は、社会的意義によって市場に破壊的変化をもたらしうることを示している。同社は「女性エンジニアの数を増やす」という使命の下、ストーリーテリング(物語の読み聞かせ)とビルディング(組み立て遊び)を一体化させ、まったく新種の製品を生み出した。販売・マーケティング担当バイスプレジデントのリンジー・シェパードが語る同社の目的は、女の子たちが自分のことを「未来をみずからの手で築けるイノベーター」だと考えられるよう後押しすることだ。その結果、おもちゃ売り場の女の子用コーナーに破壊がもたらされた。

 エアビーアンドビー(Airbnb)も、利益と社会的意義を融合させホスピタリティ業界で破壊を巻き起こしている。わずか2、3年前には、ホテルの代わりに見知らぬ人の家に宿泊することは奇妙だと考えられていた。だがCMOジョナサン・ミルデンホールによれば、同社の使命は人々の「行動と認識」をともに変え、誰もが「どこでも居場所がある」ようにすることだ。

 これらの企業にとって、社会的意義は利益を犠牲にするものでも、より多く稼ぐための戦略でもない。むしろ双方を結び付け両立できることが証明されている。

 本記事で挙げたどの企業も、その戦略を実行する際に厳しい選択を下したことは間違いない。だが今日のビジネス環境では、「戦略上の厳しい選択」の質が変化している。それはもはや、自社や顧客にとって重要な何かを諦めることではない。「1度に2つの道を行く方法を探し出す」ことを意味する場合が多いのだ。その道筋こそ、まだあまり踏まれていないのだから。


HBR.ORG原文:The Best Digital Strategists Don’t Think in Terms of Either/Or June 16, 2015


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マーク・ボンチェク(Mark Bonchek)
シフト・シンキングの創設者兼最高洞察責任者(Chief Epiphany Officer)。デジタル時代を生き抜くための思考変革を支援する。

 

カーラ・フランス(Cara France)
ザ・セージ・グループのCEO。サンフランシスコ・ベイエリアの企業にマーケティングとコンサルティングのプロフェッショナル人材を紹介している。優秀なマーケティング担当幹部を表彰するマーケターズ・ザット・マター賞の創設者。