また、第4回に登場した、紅茶のタタ・グローバル・ビバレッジス(TGBL)も、評価と学習を軸にリスクを取れるマネジメントを実践している。同社もFEMSA同様に、目標設定の項目は普通の企業と同じだが、水準は常に圧倒的な高みを目指すことを期待する。

 先進国企業は巡航速度で進み、時々リスクを取るという感覚が通常だが、TGBLはちょうどバランスが逆になっている感覚だという。成長しなければならない、今海外に出なければならない、そのためにはリスクを取らなければならない、という感覚が評価と不可分なものとして染み付いている。

 そして評価では、たとえば新興国では利益目標も持つが市場創造を重点評価するなど、市場特性に応じ重み付けを変える。海外事業で進捗が芳しくなければ、結果だけを問うのではなく、プロセスをどのように変えていくべきかを詳細にモニタリングし、本社が一緒により良いやり方の開発を目指す。

 TGBLは同時に、組織的学習にも2つの側面で長けている。第1の側面が、買収先からのグローバル経営の学習である。同社は英国のテトリーを買収し2000年代にグローバル化を本格化させた。買収当初は経営陣や従業員もそのままにし、口を出さず現状を維持させて観察しながら徹底的に学んでいった。

 そのカギとなったのが、各国に毎月提出させていた数十ページのレポートとそれに基づく対話である。レポートは社内・市場の精緻な数値情報とオペレーションの詳細を含み、インド本社では経営層から管理職までがこれを熟読し、各国に詳細な質問をうんざりするほど繰り返した。結果として、同社は茶葉のオペレーション全般、財務マネジメント、SCM、マーケティングについて、テトリーの手法をそっくり自分のものにして取り入れてしまう。

 ただし、1点だけインド流を世界に広げたのが、アグレッシブな事業目標管理の手法である。買収されたテトリーはリスクを避ける消極的文化が根付いていたため、この点は刷新し、SCMなど学んだ手法も、骨格は維持しつつより積極拡大する方向に変えていった。この過程で、インドから各国に人を派遣して学習を続け、受け入れ側もインド流に慣れさせた。そして買収から7年が経ち、学習が終わった時点で、同社はロンドンの経営幹部をインド人に置き換えている。

 また組織学習が活きる第2の側面が、海外市場への参入ステップである。テトリーの例では最初に大型買収というリスクテイクありきだったが、TGBLはその海外戦略全体でも、学習を重視している。本社の経営陣は攻めたい領域を明確に持ち、決してあきらめない。しかし、リスクが大きい領域では段階的な攻め方を取るのである。たとえば文化が大きく異なるロシア事業と、事業特性が全く違うミネラルウォーター事業では、いきなり買収することを避け、まず小額で出資・合弁を組み、数年の学習を終えてから買収している。分からないことは「分からない」と素直に受け入れ、戦略的に実験期間を取れるのも、多角化を進めるTGBLの強みの一つとなっている。

 変化の早い環境では、実験を繰り返すスピードと組織学習の深さが勝負を分ける。そのために、EMNCは自らの事業モデルに失敗を組み込む。また、従業員に常に大きな目標を与え、恐れずに挑戦できるよう評価と学習の仕組みづくりを工夫している。従業員が安定を望み失敗を嫌うのは、程度の差はあれどの国も同じだが、日本企業はその傾向がことさら強い。リスクとの共生の仕方は、EMNCから学びがある最も分かりやすい切り口であり、今こそ、及び腰の慣性を打破する仕組みづくりが求められている。

参照)
Grupo Bimbo Website, Annual Report等
Jollibee Website, Annual Report等
JBS Website, Annual Report等
Tata Global Beverages, Website, Annual Report等
FEMSA Website, Annual Report等
Harvard Business School (2009). Grupo Bimbo(ケース).
Bartlett, C., & Beamish, P. (2011). Transnational management (6th ed.), New York, McGraw-Hill Education.
Backaler, J. (2011). China goes west: Everything you need to know about Chinese companies going global, New York, Palgrave Macmillan.
新聞雑誌記事(英語・日本語)
各社元経営陣インタビュー