評価と学習を使いこなす

 さらに、EMNCがリスクを取ったチャレンジャーであり続ける仕組みとして、もう1つ重要なキーワードが「評価と学習」である。

 たとえば、第2回に登場したメキシコの飲料・小売企業であるFEMSAでは、飽くなき成長を目指す組織文化が強く根付いている。同社の組織文化のキーワードは、素早い成長、リーンな手続き、仕事への熱中、結果を出してビッグになること、だという。この文化を支える仕組みの1つが、目標設定と人事評価である。同社でも、目標設定に使うKPI項目は、利益・売上・市場シェア・成長率など、普通の企業と変わらない。違いがあるのは、その設定水準のアグレッシブさである。多くの先進国企業では、市場データを元に合理的な説明が出来る、かつ実現可能な水準を設定しようとする。しかし同社では、市場並みプラスアルファ程度の成長では満足せず、常に意図してその2-3倍の成長を目指す。

 そして目標設定よりも重要なのが、結果が出た後の評価である。多くの先進国企業では、マネジャーの業績評価は「目標達成」か「目標未達」の2つしかない。人材が流動的な企業なら、1回の失敗は許されても複数回未達を繰り返せば退出を促される。日本企業ならクビになることはなくても、人事評価上のバツがその後も履歴として残るかもしれない。だからこそ、確実に達成できるよう目標水準を何とかして引き下げようとするリーダーが、どこにでも見られる。

 しかしFEMSAでは、失敗を組織学習の機会ととらえる。そのため目標未達があると、「未達」自体を問題とするより、なぜそうなったのか、絶対値としてはどうなのか、そこに到るプロセスで正当な努力があったのかを重視する。そして何を間違えたのか、何を繰り返すべきでないか、学習結果を少人数の当事者で素早く明確に検証させる。

 そして、その学習結果を組織で共有することに努める。もちろん、未達だったマネジャーが高い報酬を得ることはできないが、もし成功すれば相応のボーナスも約束され、リスクを取れる環境が整っている。正しい失敗を許容する評価制度の運用が、上昇志向で積極的な社内起業家の登場を促すのである。