小失敗は織り込んで現場に任せ、
大失敗のリスクはリーダーがとる

 EMNCがリスクと共生する手法には、仕事の任せ方に関わるものもある。小さな失敗はある程度織り込んだ上で権限委譲し、大胆でスピーディな事業展開を行うのである。たとえば、第2回で登場したフィリピンの外食チェーン、ジョリビーの海外展開もそうした例の一つといえる。

 ジョリビーは1993年に外部出身者をトップに登用して、海外事業部門を設立した。海外事業を国内事業から切り離し、それまでの人脈依存の機会的進出モデルから、市場調査とデータに基づく戦略的展開モデルに変革するためである。

 新体制では、それぞれの海外展開プロジェクトの現場に大きく権限が委譲された。具体的には、最初に本社が展開国での現地パートナー企業を選定するが、それ以降の意思決定は担当のフランチャイズサービスマネジャー(FSM)に大きく一任されることとなった。

 FSMは、まず現地に精通したプロジェクトマネジャーを自らが現地で選んで雇う。そして展開の成否を左右する初期オープンの店舗について、ロケーション決定から店舗物件手配、店舗設計、資金計画、マーケティング計画、店長およびスタッフ採用まで権限を与えられた。本部はガイドラインを示し、市場分析や店舗設計を支援するものの、どこまで支援を受けるかもFSMに裁量の余地が与えられた。スタッフ研修など統一すべき側面は本国が管理しつつ、店舗レイアウトや場合によって一部メニューまで、ローカライズする提案が推奨された。

 ジョリビーは海外事業部が主体となり、この時期にUAE、クウェート、サウジアラビア、グアムなど多数の新しい市場に展開した。結果には成功も失敗もあったが、海外業部発足から着実に各国で事業基盤を広げ、FSM経験ある貴重な海外事業人材を育成した点が大きな収穫となっている。

 また単に任せるだけでなく、その反面でリスクの高い大戦略は強力なリーダーが責任を持って決断を下すことも、EMNCの特徴である。たとえば第4回に登場したブラジルの肉加工企業JBSは、経営トップ自身が勇敢な決断で巨大M&Aを繰り返してきたことで名高い。

 同社では2000年から、創業者の3人の息子に経営の引継ぎが始まった。この世代交代以降に同社はM&Aを急加速し、現在までの累計で2兆円を越える規模のディールを立て続けに行ってきた。彼ら新世代が持つ米国的な経営感覚と、ブラジル特有のおおらかさが同社の成功の土台と言われる。同社はオペレーション改善では現場の創意工夫を重視するが、連続買収のようなリスクある施策には、大株主である創業家が自ら責任を持つトップダウンで臨んでいる。

 ローカルに権限委譲し現場志向のトライアルを推奨する一方で、大きすぎるリスクをはらむ戦略転換は衆議に任せず、トップが責任を持って勇気ある決断を行う。そのミックスが起業家精神の強い組織の特徴である。EMNCのほとんどが創業者一族の強いリーダーシップの下で経営される企業であることは、決して偶然ではない。